働き方改革

2018/07/31

【医師監修】長時間労働の原因と対策を考える

日本では長時間労働が今もなお問題となっており、政府も喫緊の課題として位置付けています。この記事では、長時間労働の問題点や原因、改善に向けた取り組みを成功させるためのポイントについて、実際の取り組み事例を取り上げながらご紹介していきます。

政府が進める「働き方改革」の中でも、長時間労働の改善は喫緊の課題と位置付けられています。 この記事では、長時間労働がもたらす問題やその原因、改善に向けた取り組みを成功させるためのポイントなどについて、実際の取り組み事例を取り上げながらご紹介していきます。

1. 長時間労働とは?何時間からか?

働き方改革といえば必ずと言っていいほど取り上げられるのが、多くの企業で問題となっている時間外労働の長さです。
では、「長時間労働」や「過重労働」とは、どれくらいの時間働くことをいうのでしょうか?
実は、長時間労働の定義は明確に決まっているわけではありません。
しかし、以下にご紹介する内容を押さえておくことで、企業における取り組みにおいても一定の目安とすることができるでしょう。

時間外労働が長くなるほど健康障害のリスクは高まる

労災認定基準のもとになる医学的検討の結果から、時間外労働や休日労働が月45時間を超えた場合、労働時間が長くなるにつれて健康障害のリスクが高くなるといえます。
さらに、月に100時間超、または2~6か月間の平均が月80時間超の場合、脳・心臓疾患の発症と業務との関連が強くなることが医学的に確認されています。これがいわゆる「過労死ライン」と呼ばれるものです。

ただし、業務がどの程度過重なものであるかは、勤務時間の長さだけで決まるものではありません。就労の実際のあり方によって総合的に判断されるものです。
したがって、平均の時間外労働が月80時間より短くても、実態として是正すべき長時間労働にあたると判断されることもあります。

「働き方改革」における時間外労働の上限規制

長時間労働の是正に必要な制度として「働き方改革関連法」が成立、全業種に時間外労働の罰則付き上限規制が導入されました。
その内容の骨子は以下のようになっています。

週40時間を超えて労働ができる時間外労働の上限は「月45時間、かつ、年360時間」とする。
臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度とする。


参考:厚生労働省 働き方改革特設サイト 時間外労働の上限規制

2. 長時間労働の原因は何か?

データでも明らかな日本の長時間労働

総務省統計局の労働力調査から2017年の男女別データをみると、男性の約3割は週49時間以上働いていることがわかります。
中でも働き盛りである30~40代前半の男性では、約4割が週49時間以上働いています。
週49時間を超える長時間労働を行っている労働者の割合は、2013年の時点で日本21.6%、アメリカ16.4%、イタリア9.6%、イギリス12.3%、スウェーデン9.6%、フランス10.8%、ドイツ10.5%となっており、国際的に見ても日本の長時間労働が多いことは明らかです。

長時間労働の原因

長時間労働原因としてはさまざまな理由が挙げられますが、経済産業省の意識調査によると、以下のような要素が長時間労働の原因として上位を占めました。

・管理職(ミドルマネージャー)の意識・マネジメント不足
・人手不足(業務過多)
・従業員の意識・取り組み不足
・社員の生産性・スキルの低さ
・長時間労働を是とする人事制度・職場の風土


参照:http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000377.pdf


また、日本で成果主義が根付いていないことが長時間労働の原因であるとする意見も少なくありません。
報酬額を決める評価内容の違いから、評価制度を以下のように整理することができます。

・インプット主義 : 労働投入量=労働時間と勤続年数で賃金が決まる(評価がしやすい)
・アウトプット主義 : 実績・成果で賃金が決まる(計測・評価が難しい)


日本では、結果よりも努力すること自体が褒められるような文化が依然として根強く、インプットを重視する傾向があり、どうしても長時間労働が評価され賃金に直結しがちです。

また、残業が発生する背景として以下のような社会的要因も指摘されています。

集団意識と上下関係

自分の仕事が終わっていても、上司や同僚が残業をしていると先に帰りにくいという心理から、必要のない「付き合い残業」がしばしばみられます。

労働市場における人的資本の流動性の低さ

長期雇用を前提にしていると、社内の人材のみですべての業務に対応しようとしてしまうため、際限なく仕事が増えてしまいます。
また、専門性の高い即戦力の採用による解決がないため、人材育成も内部で行うことになり、後輩の指導や非正規スタッフに仕事を教えることなどが残業の原因となります。

職務内容のあいまいさ

欧米の雇用契約と異なり、日本では多くの場合、果たすべき職務の内容や線引きが明確ではありません。
このため、「できる社員」にあれもこれもと多くの業務が集中してしまいます。

慣習的な男女間分業

男性は外に出て働き、女性は家庭を守るという考え方はいまだに根強く、冒頭のデータが示すように男性の長時間労働をよしとする風潮が残っています。
また、女性は早く家に帰るもの、あるいは結婚や出産によってキャリアを中断するという考えが残る企業も依然として多く、結果的に社内のキャリアアップに男女差につながる場合があります。

3. 長時間労働はなぜ問題か?

長時間労働によって引き起こされる問題には、どのようなものがあるでしょうか。以下に挙げたいくつかの観点から整理することができます。

ワークライフバランスの問題

労働時間が長すぎると、仕事と生活を調和させることが難しくなります。個人としての余暇時間が少なすぎることだけでなく、結婚や育児、家族との生活、介護などへのしわ寄せが大きな社会問題となっています

ダイバーシティ(多様性)の障壁要因

長時間労働を前提とした男性中心社会は女性の社会進出を阻害するだけでなく、外国人労働者の参入障壁にもなっています。
外国人留学生が日本で働きたくない理由として長時間労働が上位にあがるなど、多様な働き方を可能とする社会を目指す上で、残業ありきの労働環境は大きな問題となります

イノベーションを生む「ゆとり」の減

心理学の研究から、豊かな発想や創造的なアイディアは、目の前の仕事に追われているときよりも、ゆとりのあるときに生まれることが明らかになっています
これは私たちの実感とも一致するのではないでしょうか。日本企業からはイノベーションが生まれないといわれる理由も、この点にあるのかもしれません。

長時間労働はプレゼンティーイズムを引き起こす

仕事をするうえで、ある程度のストレスは必要ですが、問題とすべきは、長時間労働などによって睡眠時間が減り、休息できなくなった状態で生じた過度なストレスです。
こうした過度のストレスは心身の不調を招きます

ストレスの状態が高まると会社の欠勤・早退・遅刻などに繋がるだけでなく、「プレゼンティーイズム(体調が良くないまま出社し、本来のパフォーマンスが発揮できない状態)」も起こってきます
このプレゼンティーイズムの状態が続くと、意欲の低下やミスの連発を招きます。最近、労働生産性が低下する要因のひとつとして、この「プレゼンティーイズム」という考え方が注目されるようになってきています。

4. 長時間労働を削減するには?

日本が推進する長時間労働対策のポイント

日本では長時間労働削減のため、厚生労働大臣を本部長とする「長時間労働削減推進本部」を設置し、以下のような取り組みを通じて長時間労働対策を強化しています

「過労死等ゼロ」緊急対策

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表

労使団体への要請、経済団体の取り組み

厚生労働省から労使団体などへの働きかけとして、一般社団法人日本経済団体連合会、全国中小企業団体中央会、日本商工会議所、日本労働組合総連合会などの各団体に対し、「長時間労働削減をはじめとする『働き方改革』に向けた取組に関する要請書」が送られています。

また、日本経済団体連合会、経済同友会などの経済団体では、「長時間労働につながる商慣行の是正に向けた共同宣言」を公表し、「サービスの価値に見合う適正な価格で契約・取引する」など、発注内容や納期の設定、取引先とのやりとりに至るまで具体的に言及した6項目を挙げています。

企業が求められる対策の方向性

政府や経済団体が長時間労働対策を打ち出す中で、今後、企業側には長時間労働の削減を進めることと同時に、メンタルヘルスチェックと産業医による面接指導の実施(時間外労働が月100時間を超える場合)も求められます。

しかし、ひと口に長時間労働削減と言っても、単に上限規定に触れないように縛りをかけるだけでは実現は難しいでしょう。
必要なのは、残業発生の本質的な原因を解決することです。
労働時間に直接関係する法令上、制度面の対策を講じることはもちろん重要ですが、管理職のマネジメントのあり方や社員一人ひとりの仕事の仕方、仕事に対する意識を見直し、ひいては組織の体質改善に取り組むことも求められます。
また、それぞれの対策にあたっては、時間当たりの生産性を高めながら進めることが必要です。

5. 長時間労働の削減に貢献する方法とは?

長時間労働について、実際に削減に貢献しているような方法はあるのでしょうか。
厚生労働省では、事業者に対するアンケート調査の結果をまとめた「時間外労働削減の好事例集」を公表しています。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kinrou/120703_01.htmlこの中から主なポイントをご紹介しましょう。

残業の事前申請と実施状況の管理

残業を申請した人の業務内容などを管理職が確認し、急ぎの業務以外は翌日に回したり、他の社員へ仕事を振り分けたり調整することで、残業が増えないように管理します。

顧客を巻き込んだ業務効率化・改善

自社のコストが増加すると顧客に請求する費用にも影響することを理解してもらうことが大事です。
業務が非効率で長時間労働につながっている場合は、自社と個客双方の業務の効率化が進み双方の時間外労働が減ることで、コスト削減にもつながるような改善を提案します。

多能工化による業務の平準化を目指したジョブローテーション

限られた人しか担当できない業務があると、一部の社員に仕事が集中して長時間残業につながるため、複数の業務をこなせる社員を計画的に増やすよう、ローテーションしながら人材教育を行います。

社員が自分で決める「ノー残業デー」

みんなが残っていると帰りにくいという雰囲気があるため、自分の都合に合わせて「ノー残業デー」を設定することで、気兼ねなく定時で帰りやすくなります。

従業員教育による能力向上

顧客のニーズを満たすための仕事のやり方を標準化することも長時間労働の継続的改善につながります。
品質マネジメントのシステムとも呼ばれるISO9001の認証をすることはひとつの方法でしょう。
従業員の業務遂行スキルをチェックする「業務力量表」を各部署で作成し、各人に合わせたスキルアップの教育計画を立案することで、無駄な時間を省き効率よく能力向上が図れるようになります。

6. まとめ

長時間労働は企業の業績にとってプラスにならないだけでなく、むしろ経営上のコストやリスク要因を増大させます。
それは、欠勤・早退・遅刻など目に見えるものだけでなく、体調が良くないまま出社し、本来のパフォーマンスが発揮できない「プレゼンティーズム」にも繋がり、そのための対策はきわめて優先度の高い経営課題であるといえます。
長時間労働を削減するためには、厚生労働省の好事例集にあるように、その原因を把握して、原因を根本から改善するような対応策が有効です
ぜひ自社の状況に合った長時間労働の削減を工夫してみてください。

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工藤 孝文

日本内科学会、日本糖尿病学会、日本東洋医学会、日本高血圧学会、日本甲状腺学会、小児慢性疾病指医

福岡県みやま市出身。福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学、帰国後、大学病院で糖尿病、肥満症などの生活習慣病を専門に修業、現在は、自身のクリニック工藤内科で診療を行う。2017年よりスマホ診療を導入し全国規模でダイエット治療・漢方治療を行っている。

テレビ番組の出演・医療監修、書籍、雑誌やヘルスケア情報サイトの監修など、メディア活動多数。

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