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伊藤忠が語る健康経営の秘訣は、「すぐに結果を求めない」こと?

どこよりも早く「健康経営」に取り組み、そのユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事。髙澤 桃乃さん(人事・総務部 企画統轄室)に、伊藤忠が健康経営に込める想いと、取り組みのきっかけや成果についてお話を伺いました。健康経営の成功の秘訣はいかに?

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どこよりも早く「健康経営」に取り組み、そのユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事。髙澤 桃乃さん(人事・総務部 企画統轄室)に、伊藤忠が健康経営に込める想いと、取り組みのきっかけや成果についてお話を伺いました。健康経営の成功の秘訣はいかに?

健康経営のユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事、人事・総務部の高澤桃乃さん

 

「最少人数で最大効果を生み出す」ために

Q 御社が「健康経営」に取り組み始めたきっかけはなんだったのでしょう?

A 弊社では、2010年4月に岡藤正広が社長(当時)に就任してから、会議・資料の削減や朝型勤務など様々な「働き方改革」を推進して参りました。実は弊社は、他の総合商社に比べ人数が少ないのです。当社の特色である「最少人数で最大効果を生み出す」ためには、まずは社員全員が全力で戦える状態であることが重要です。弊社では社員の「健康」は能力開発と同じくらい重要なものと位置付けています。

Q 経営戦略として「健康経営」に取り組まれてきたのですね。

A そうですね。弊社にとって「健康経営」は成長戦略の一つだと思います。2013年に朝型勤務を導入し、2016年6月には弊社の健康経営の方針を明文化した「伊藤忠健康憲章」を、社長名で打ち出しました。内容はシンプルで、社員の健康力が本人だけでなくその家族、お客様や社会全体の健康の礎となり、ひいては社会・会社の永続的な発展を実現するものであり、そのために社員ひとり一人が自分の健康力に責任を持ち、会社もそれを全力でサポートするというものです。弊社にとって「健康経営」は、経営戦略の一つだということを社員に対しても、世間に対してもコミットをしたことが、理解につながったと思っています。

健康経営は「トップダウン」で推進

健康経営のユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事、人事・総務部の高澤桃乃さん

Q 取り組み当初、社員の方の反応はいかがでしたか?「健康経営」に対して、社内で理解がなかなか得られないという悩みも聞こえてきます。

A 弊社の場合は、社員が「健康経営」を違和感なく受け止められたのではないかと思います。2010年から色々と取り組んできたということもありますが、やはりトップダウンのリーダーシップがあったことが大きいですね。最初に社長の言葉があったことは大きい。社長自らが、うちの会社は経営戦略として「健康経営」に取り組むという「伊藤忠健康憲章」を打ち出して、それをきっかけに人事・総務部が具体的な施策として思いを具現化してきたという流れですね。

Q なるほど、トップダウンで「健康経営」を推進していくことが重要ということですね。

A そうですね。トップが思いや方針を社員に対し絶えず発信していくことや、導入に至る背景を共有することは重要だと思います。あとは「社員の腑落ち」ですね。いくらトップのメッセージがあっても、社員が腑に落ちないとひとり一人が意思をもって「健康経営」に取り組むことは難しいと思います。

Q 社員に「健康経営」を浸透させるために、どのような工夫をされましたか?

A 弊社は以前から健康管理室やキャリアカウンセリング室による充実した健康管理体制を整備していますが、「伊藤忠健康憲章」を打ち出してからは、「健康経営」への具体的な取組みとして、禁煙治療費の全額補助化や、健康習慣を身に着けてもらうことを目的としたスタイルアッププログラムやウォーキングイベント等、様々な施策を始めました。

「健康経営」に正解はない。短期間で結果を求めないという心構え

健康経営のユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事、人事・総務部の高澤桃乃さん

Q 「健康経営」を始められた当初は、ご苦労もありましたか?

A 苦労というわけではないですが、「健康経営」ってこれをやれば正解というものはないと思うんです。社員の健康力向上につながることは何か、日々色々な施策やイベントを試行錯誤しながら、手探りで続けてきたという感じですね。健康経営のための施策は色々とアイデアがありますが、弊社社員が仕事と両立しながら取り組めるということや、初めは社員が楽しみながら健康習慣を身に着けてもらうことも大事だと思っていますので、「健康経営」は個社ごとに施策の色も異なってくると思います。

Q 「健康経営」の効果検証はどのようにされていますか?

A 「健康経営」は長期にわたる経営戦略なので、スタートしてから短期間で結果を求めないというのが心構えとして大切なのではないでしょうか。もちろん中長期的には、KPIとしてBMIや喫煙率、医療費等の推移を見ていますが、いつまでにどのレベルといった期限を設けた目標設定などはまだしていません。

まずは自分の健康習慣を見直してもらうところから

健康経営のユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事、人事・総務部の高澤桃乃さん

Q 色々な施策やイベントに取り組まれてきたということですが、具体的に御社ではどんなことをされているのですか?

A 取り組みの一つに、先ほど申し上げた「スタイルアッププログラム」というものがあります。34歳以下の生活習慣病リスクの高い社員に対し、「スタイルアッププログラム」と銘打って、ウェアラブル端末と健康管理アプリを活用した2ヵ月間の独自プログラムに取り組んでもらうことから始めました。これが結構評判いいんですよ。

Q ダイエットではなくて「スタイルアップ」というのがいいですね。

A そうなんです。ネーミングは重要ですね。ダイエットと言ってしまうと、意図がずれてしまいます。目的は痩せてもらうことではなく、あくまでも「健康習慣を身に着けてもらう」ことなので。

Q 具体的にどんなことをされているのですか?

A 2017年から始めたこのプログラムは、健康管理が必要になる前の社員を対象にしました。具体的には、定期健康診断でBMI値が一定数以上の若手社員にフォーカスをしました。弊社は35歳以上で人間ドックを受診し、何等かの数値が高い場合は「要健康管理者」として社内の医療サポートを受けられる体制になっていますが、一方その前段階で意識変革をすることで、将来的な「要健康管理者」を減らし、生活習慣病の未然予防をしたいと。

2017年に開催した第1回プログラムでは、100名ほどの男性社員が参加しました。第2回は、男性社員100名・女性社員30名程度です。具体的には、ウェアラブル端末と体組成計を無料で配布し、後述する健康マイページ『Re:Body』を通して睡眠時間、歩数、食事のカロリーなどのデータを集計して、そのデータに基づき専門コーチから改善のためのアドバイスを受けられるようにしました。それだけだと飽きてしまうので、プログラム終了後には日々の記録や各種数値の改善率を指標として、ランキング形式で副賞をプレゼントしたりもしました。

社員の意識改革が一番の成果

健康経営のユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事、人事・総務部の高澤桃乃さん

Q プログラムに参加された社員の反応はどうですか?

A 「スタイルアッププログラム」はそろそろ第3回を企画しています。これまでに参加した人数は延べ230名程度になります。2ヶ月のプログラムを終えたところで、数値としても成果が現れました。ただ、先ほどもお伝えした通り、本プログラムの目的は、目先の数値改善もさることながら、プログラム後も続けてもらえるような健康習慣の醸成です。
プログラムに参加した社員にアンケートをとると、8割以上の社員が「健康に対する意識が変わった」、7割以上が「今後も自分でスタイルアップできそう」と答えています。この意識改革が「健康経営」にとっての大きな成果だと思います。

Q イベントのほかに、日常的に行われている「健康経営」の施策はありますか?

A 弊社では、スマートフォンで健康管理ができる健康マイページ『Re:Body』というシステムを導入しています。これは、全社員がPCやスマートフォン上で、健康診断結果に加え、歩数、体重、体脂肪率、摂取カロリーなどのデータを一元管理できるシステムです。「健康経営」に社員ひとり一人が取り組むと言われても、まず何をしたら良いのか分からないという声が多かったので、継続の意識をもってもらう仕組みの一つとして、2017年に導入しました。

社員にとって、「健康」を身近なものに感じる機会の一つひとつに、毎年受ける定期健康診断があります。健康診断の結果を一過性のものとして受け止めるのではなく、健康への指標として活用してもらいたいと思いました。健康診断の結果と、日々の自分の健康データを常に確認することができる状態にすることで、健康意識の向上につながればと思っています。

健康経営のユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事、人事・総務部の高澤桃乃さん
(健康マイページ『Re:Body』の実際の画面)

Q 健康マイページ『Re:Body』の活用度合は?活性化のために工夫されていることは?

A 現時点では1,300人程度の社員が『Re:Body』を活用しており、利用者数は徐々に増えてはいますが、。やはりシステムを作るだけではなかなか使ってもらえないので、ウォーキングイベントなどを実施して活性化を図っています。健康マイページ『Re:Body』をスマートフォンにインストールしておけば、歩数が自動的に集計されます。全社員参加可能で、歩数を競ってウォーキングへの動機づけを促したりしています。シンプルな施策なのですが、このウォーキングイベントによって、部署内のコミュニケーションが活発になったという意見も聞こえてくるので、色々と波及効果があると思っています。

朝型スタイルが健康にも大きく貢献

Q 御社ならではの「健康経営」の取り組みがあれば教えてください。

A やはり3年前から導入している「朝型勤務制度」が、健康経営に大きく寄与する施策です。20時以降の残業は原則禁止で、22時以降は完全禁止。夜に残業をする代わりに朝早く会社に来た方が、仕事の効率も上がり、ビジネスをする上で一番大切なお客様対応の徹底が図れるということで推進しており、インセンティブとして無料の軽食配布等もしています。朝型勤務は長時間労働の是正や健康的な体内リズム、朝食を摂る習慣などにも繋がり、健康への影響は非常に大きいと考えています。

また弊社では「110運動」を呼びかけていて、飲酒会食は「1次会まで、10時までに切り上げる」としています。これも併せて推進することで、朝型の生活スタイルへのシフトを促すと共に、お酒の飲み過ぎや就寝直前まで飲食しているという習慣を変えられればと思っています。

2018年スタートの独身寮。その狙いは?

健康経営のユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事、人事・総務部の高澤桃乃さん
(2018年4月にオープンした独身寮)

Q 新しく「独身寮」も開設されましたよね?

A はい。2018年4月、神奈川県日吉に独身寮がオープンしました。これまで新入社員の男子の独身寮は鷺沼や仲町台など首都圏ではありますが4棟に分かれていたところを統合し、「日吉寮」を新設しました。本社への通勤は約30分という利便性で通勤負担が軽減されます。また、実はこの寮にも「健康経営」の施策が盛り込まれています。

「健康経営」の観点では、食堂では管理栄養士によるバランスのとれた食事の提供や、運動面ではセントラルスポーツ株式会社様との提携により施設利用や寮生への個別プログラムの提案を実施します。さらには、喫煙室以外は居室を含め全館禁煙とし、喫煙者には希望制で禁煙プログラムを提供するなど、環境を整備しました。寮生活を通じて、社員の健康力の増進を促すことが狙いです。

健康経営の観点以外でも、寮生活には様々なメリットがあると思っています。弊社は総合商社なので、部署が分かれると社員同士の接点が薄くなりがちです。寮生活を通して、年次や部署を超えた縦横斜めの人間関係の繋がりを作り、コミュニケーションを活性化させたいという狙いがあり、シェアキッチン付食堂や各階コミュニケーションスペース、サウナ付大浴場等の共用設備も設けました。

「健康経営」は中長期経営戦略。まずは小さなことから。

健康経営のユニークな施策で注目を集める伊藤忠商事、人事・総務部の高澤桃乃さん

Q 「健康経営」の実施にあたり、多岐にわたる取り組みをされていますね。何かコツがあるのでしょうか。

A コツというわけではないですが、健康になるためのきっかけ作りや環境整備をまず会社が行い、その後の自己管理のツールを提供し、健康に対する意識付けを継続的に行うということでしょうか。でも「健康経営」って本当に小さなことから始められるんですよ。

会社が「健康経営」に舵を切る前は、健康を意識したくてもできない環境だったのかもしれないと思うんです。商社は出張や駐在といった勤務形態も多い業界で、社員は常に動いている世界各国と連絡を取り合ったり。そんな商社勤務で健康にまで気を配るのは、すごく難しかったかなと、一社員の立場で思います。でも、健康力向上に向けての第一歩は、簡単なことから始められるのです。日々の食事の記録を付けるとか、今日は一駅分歩いてみようとか。そういう意識の変化から始まると思います。

Q 「健康経営」にこれから取り組もうという企業にアドバイスはありますか。

A まず最初に申し上げたように、「健康経営」は会社が本気になって進めることが重要だと思います。その次に、トップの気持ちを社員に丁寧に伝えていくことですね。「健康経営」の実施になぜ至ったのか、そこに込めた思いやストーリーを伝えていくことがとても大切だと感じています。「健康経営」を実践するのは経営者ではなく、社員です。社員の理解とモチベーションを維持することが、「健康経営」を成功させるための肝となるのではないでしょうか。
「健康経営」に正解はなく、中長期の経営戦略です。それぞれの業界、業種にあった「健康経営」の方法を各社が模索していくことが大切だと感じています。

伊藤忠から学ぶ「健康経営」成功の秘訣

「健康経営」の実施にあたって、①トップダウン・経営戦略としての推進、②社員が実践できる施策・環境の整備、③短期的な結果を求めないこと、この3つが大切であると、髙澤さんから教えていただきました。上記の3つのポイントを心掛けた上で、それぞれ企業にあった「健康経営」の施策を模索されてみるといいかもしれません。

髙澤さん自身も、プライベートではビーチラグビーをされているとのこと。お話を伺っている間、髙澤さんの「健康経営」に対する熱い想いに圧倒されっぱなしでした。その熱意はどこから?と尋ねると、「私、会社のことが本当に好きなんですよね」と一言。「商社だからこそ、一歩先を行く会社でありたい」「健康経営においても常に先手を打ちたい」と語る高澤さんの姿が印象的でした。伊藤忠の“社員が一番の経営資源である”という企業理念が、裏付けられたお話となりました。