インタビュー・導入事例

2018/03/28

企業の生産性向上は、社員のモチベーションアップにつながる健康経営が鍵

社員のモチベーションを高め生産性向上につなげるために、様々取り組みをしながら、うまくいかいないと悩む企業の担当者も多いのではないでしょうか。組織行動論などから経営学を研究する武蔵大学 森永雄太先生に、仕事のモチベーションアップの考え方や取り組みポイントについてお話を伺いました

社員のモチベーションを高めて企業の生産性向上につなげるために、様々取り組みをしながら、必ずしもうまくいかいないと悩む企業の担当者の方も多いのではないでしょうか。

組織行動論などから経営学を研究する武蔵大学 森永雄太先生に、仕事のモチベーションアップの考え方や成功と失敗を分ける取り組みのポイントについてお話を伺いました。実はこのモチベーションアップ、社員のメンタルヘルスや健康を保つ健康経営においても重要な要素なのです。

仕事とモチベーションの関係とは

Q 個人の仕事に対するモチベーションアップは企業の経営にどのような影響を与えますか。

A これまで経営学や産業組織心理学では、個人の業績を能力とモチベーションの掛け算で考えてきました。経営学では能力は短期的には変わりませんがモチベーションは短期間で変動するものと捉えられているため、企業の業績を決める要因として、モチベーションアップはとても重要視されています。

Q 仕事の効率や質とモチベーションの関係はどのように考えられてきたのでしょうか。

A 経営学の研究が始まったばかりの頃は、仕事の効率にばかり注目していました。なるべくたくさん働いてもらって、従業員に決められた仕事を素早くこなしてもらうことが大事だったわけです。

頑張った人により多くのお金をあげれば、モチベーションも上がるという考え方でした。量と質で考えれば、量の観点しかなかったのですね。

では、質とモチベーションの考えはどうか。サービス業が増えてきた時代あたりから、量や効率の問題よりも従業員が接客に工夫をするとか、クリエイティブな仕事をしてくれるとかいうことが求められるようになりました。その結果、内発的なモチベーションが注目されてきたんです。

社員のモチベーションを上げるポイント

Q 社員個人のモチベーションは、どのような要素で高められるのでしょうか。

A 大きく2つの要素があると思います。1つめは、仕事に対する期待感です。自分は、この仕事が出来そうだという期待感ですね。頑張ったらできそうだとか、頑張ったらいいことが起きそうだという期待感が持てるかどうかです。
2つめの要素は頑張ったときに得られる報酬に価値を感じられるかどうかです。報酬にはいろいろあって、お金だとか出世だとか、やっている仕事が面白いだとか、個人によって価値を感じるポイントに違いがあるわけです。その仕事で得られる報酬に価値を見出すとモチベーションアップにつながります。この中で特に、やっている仕事そのものが面白いというタイプの報酬に価値を見出し、その結果、喚起されるのが内発的なモチベーションです。

社員自ら仕事の価値を創るジョブ・クラフティング

Q 社員個人が仕事に価値を見出せるかどうかが決め手ですか。

A 2000年以降になりますが、従業員も仕事を作り出していくという考え方が注目を浴びてきました。「ジョブ・クラフティング」と呼ぶ考え方ですね。
決められた仕事を流れ作業のようにこなす働き方ではなくて、自己裁量の余地のある仕事の与え方をして、さらに従業員が自分の価値感や能力に合わせて仕事を作り替える方が仕事からやる気を感じてもらえると、経営学者たちは気付いてきたわけです。

Q やりがいのある仕事を自ら作り出すということでしょうか。

A そうですね。社員みんなが同じ仕事をしていくイメージではなくて、自分に合った、自分がやりがいを感じられる仕事を作り出していくイメージです。
全員がまったく同じように業務をこなすのではなく、仕事の形を変えていく、あるいは創造していく。ジョブ・クラフティングが成功している社員は結果的にやる気を感じられるようになる、仕事に意義を感じられるようになる人が多いという考え方です。

ジョブ・クラフティングを成功させる秘訣

Q ジョブ・クラフティングの成功例はありますか。

A ジョブ・クラフティングの例として、いつも挙げるのは、東京ディズニーリゾートのカストーディアルの働き方です。掃除を担当する係の人ですが、非常に不人気な職種でした。あるカストーディアルの人が自分たちは掃除以外のことをしてはいけないとは言われていないということに気付きました。
自分たちはキャストの一員だと言われていたので、ゲストをもてなすことも自分たちの仕事だと気付いたわけです。掃除をサボってはいけないけれどお客さんを喜ばせることを仕事の中に取り込んでもいいんじゃないかと考え始めて、自分たちが持っているほうきで地面にミッキーを描くということを始めた。

Q 自ら仕事を創造したということですね。

ジョブ・クラフティングに目覚めたわけです。ゲストたちは隠れミッキーなどが大好きなので、ほうきで描いたミッキーを「ラッキー、目の前で描いてくれた」と喜んでくれる。

Q そこでカストーディアルの人たちのモチベーションが高まったわけですね。

A そうです。ここで重要なのは、オリエンタルランドのマネジメントがこういう仕事をするようにと命令したのではなく「あなた達はゲストを喜ばせるキャストの一員だ」とメッセージを出しただけということです。こうしたマネジメントの方針があったからこそ、カストーディアルの人たちの「こういう仕事をやってもいいんじゃないか」というジョブ・クラフティングにつながったのです。

思い込みを解きほぐすことから始める

Q オリエンタルランドの企業風土だからできたということもありますか。

A 企業の人事担当の人にこの事例を話すと「オリエンタルランドだからできるんでしょう」と必ず言われます。どの会社も業務フローやルールがありますので、なかなか逸脱することはできません。
仕事のプロセスをきっちりこなすべきという会社や職種には、ジョブ・クラフティングは合わないと考えられがちだと思います。ただ、仕事の範囲ややり方は慣例に従っているだけだったり、こうしないといけないという思い込みに従っているだけだったりすることも多いのではないでしょうか。そうした思い込みを問い直し、解きほぐすことが、ジョブ・クラフティングを始める鍵なのです。

Q 思い込みを解きほぐして成功した例はありますか。

A 老舗の食料品店の例があります。伝統を守って大きなのれんを店の外に掲げておかなくては営業できないと誰もが考えていた。商品の陳列も伝統を守って慣例として並べていました。

かつては、お得意様がその食料品店のことを知っていて、のれんをくぐって買い物に訪れてくれていたのです。ところが時代が変化しました。海外からのお客様は、素通りしてしまう。大きなのれんがあるから、何の店で、どんな商品があるのかは分からないからです。敷居が高かったわけですね。

そこで手を挙げたのが店長さんでした。店長は社長と交渉したのです。表には入りやすいように店内が見える形の小さなのれんを掲げることにしました。商品の陳列方法も変えました。海外からのお客様でも、「ここは日本の食品を売っている店なのだな」と分かりやすい陳列に変えたのです。伝統ののれんは、店の奥に掲げることにしました。結果としてこの店舗は、伝統を重んじつつも、海外からの旅行客にも入店してもらえるような店構えに変更することに成功できたのです。店長にすれば、自分の思い入れのある店構え、陳列が実現でき、一層仕事に打ち込めるようになりました。

モチベーションアップを成功させる企業の取り組みとは

Q ジョブ・クラフティングを通じて社員のモチベーションを高めるため、経営トップや、現場リーダー、人事担当はどう取り組むべきですか。

A 経営トップは従業員の自主性や自律性を重視することを理念やマネジメントの方向性として掲げることが大事だと思います。また、現場リーダーや人事担当の方は、「ついて来い」というだけではなくて、目指すべき方向性を示して、具体的な方法は従業員自身に考えさせるようなマネジメント、リーダーシップを取るとよいと思います。

モチベーションアップの成功と失敗を分ける働き方改革

Q 働き方改革が注目されています。ジョブ・クラフティング以外にモチベーションをあげる働き方はあるのでしょうか。

A 働き方改革とモチベーションの関係でいうと基本的には2つのアプローチがあります。1つは「負担を減らす」。2つめは「仕事の資源を増やす」ことです。
「負担を減らす」は、今までみんな働きすぎで疲れていたから労働時間を減らすと楽になって、やる気が高まるという考え方ですね。2つめの「仕事の資源を増やす」は仕事の中でやりがいを感じてもらえる要素を増やして、モチベーションを高めるという考え方です。

気をつけたいのは、負担を減らすプロセスで資源も減らしてしまってはいけないということです。「何時までに帰らないといけない」と決められると、それまではみんなでディスカッションしながら作り上げていくという面白味があった仕事が、その時間が無くなり、単に個人が考えてきたものを持ち寄って仕事が完結させてしまうというようなことが起きます。チームワークで進める仕事のだいご味や働き甲斐を無くしてしまうということが起こりえます。

もっと危険なのは、若い人が「困ったな」とか「助けて欲しい」と思ったときに、皆時間ギリギリで早く帰らなきゃいけないため、相談しにくい空気が社内に生まれるということが起こることです。時間的余裕はできたとしても、心の余裕とか協調性とか、そうした本来企業の持つ資源を失ってしまうのでは、本末転倒ですからね。

Q 仕事の資源というキーワードをもう少し説明してください。

A 仕事自体をやりがいのあるものにする要素のことです。仕事に自己裁量性が与えられているかどうか、重要な意味を持つ仕事が与えられているかどうかといったが挙げられます。助け合いがされる環境となっているかどうかもそうですし、同僚や上司からフィードバックが得られているかというのも資源と呼べます。「自分の仕事は、成果を出しているのか」「この仕事のやり方で正しいのか」「別の部署とうまく連携は取れているのか」という疑問や不安に、上司からフィードバックがあるのとないのとでは大きな違いが生じます。仕事の達成感や、やり甲斐、成長を感じるという資源が失われてしまってはなりません。

仕事の自己裁量、与え方しだいでモチベーションダウンも

Q 仕事の自立と孤立は勘違いされてはいけないわけですね。

A そこが働き方改革では、難しいポイントになるでしょうね。自律性があって、仕事の自己裁量があるというのが資源ですけれど、自分は何をやっていいか分からないとか、役割があいまいだというのは、社員の負担にしかなりません。とくに若い社員には支援だとかフィードバックが伴わないといけないと思います。
ですから資源を減らさないように改革をしていくということと、社員の自立性、すなわち自分で調整する力が伴っていないと、働き方改革はなかなか難しいだろうと思います。

Q 自己裁量を持たせるジョブ・クラフティングはどうしたら成功しますか。 A 社員に期待は何なのかをきちんと伝えることでしょう。そして主体性が現れたときにそれが期待とは違うものなら、その評価もきちんと伝える。企業の期待とフィットしているかを伝えていく。このフィードバックを伴わない限りは暴走するジョブクラフターみたいなのが出てきて、好きなことだけやって嫌いなことはやらないということになってしまいます。
その人自身も、疎まれる存在になって残念な社員になってしまう。主体性を一方通行的に喚起するのではなく、フィードバックを通じて主体性を方向付けていくことで本当の意味でのモチベーションアップにつながるでしょう。

メンタルヘルスにも影響を与える仕事のモチベーション

Q 仕事の自己裁量でモチベーションを高めるには工夫がいるということですね。

A そうです。私はジョブ・クラフティング研究を10年くらい続けています。若い世代が入社後しばらく経つとやる気が下がるので、若い世代はジョブ・クラフティングを積極的に取り入れた方がモチベーションを維持できるのではないのかと当初は考えていました。
しかし若い世代には、そこまでの知識もないし、経験もない。職場の仕事の意味をキャッチアップするだけでも、一生懸命なわけですよね。それに加えて、自分から提案しても先輩とか上司に反論されて「やはり自分が至らない」と思って終わることが多い。必ずしもうまくいくとは限りません。

Q 仕事のモチベーションはメンタルヘルスにも影響するのですね。

A そうなんです。モチベーション高く働くことはメンタルヘルスの予防になります。モチベーションとメンタルヘルスは関係しているにも関わらず、企業では分業されてきたというのが現実でしょう。産業医の先生や健康管理室にいらっしゃる方はメンタルヘルスに注目する一方で仕事のモチベーションを高めて生産性を高める事にはあまり関心を持たない。
人材開発や研修を施行する人たちはモチベーションアップのことを考えたり、キャリアの問題については考えたりしても、メンタルヘルスに関しては基本的には専門職の人にお任せで、双方の連結が弱かった。
メンタルヘルスの問題があまりに顕在化して、2010年代以降から、双方を連携させていき、社員のメンタルヘルスとモチベーションをケアする体系を作っていこうという考え方が進行しています。

モチベーションと健康経営

Q 心の健康だけでなく社員の健康をケアしていく健康経営が注目されています。

A 社員は企業の資本ですから社員の健康を考えるのは大事です。健康経営は大きなイシューだと思います。ただし、健康経営に舵をきれば、すぐに生産性が向上したり、社員全員のモチベーションを向上させられるかと考えると、なかなかそうはいきません。

Q 健康経営を経営の効果につなげるためにはどうすればいいのでしょうか。

A 私たちが取り組んだのは職場での健康増進をチームで推進する方法でした。職場に対する愛着が高まるし、普段なら話さない人ともコミュニケーションが取れる。「開発の人たちは今こういったことを考えているのか」などと営業の人たちが知るなど部門間のコミュニケーションが活性化する。健康がもたらすものは個人の改善だけではなくて、企業という組織を活性化されるための施策だという理解を基に、健康経営を導入していただきたいと思います。

健康経営を一歩進めたウェルビーイング経営

Q 森永先生はウェルビーイング経営を提唱していますよね。

A ウェルビーイング経営という考えは、もとは健康経営の研究からスタートしました。健康経営は例えば喫煙率だとか病気の発症率などを下げていく。そうした取り組み項目が重視されています。
ただし先ほど議論にあがった生産性やモチベーションにつなげていくということを考えたときに、健康経営の考え方を広げて捉えていく必要があると気づきました。海外では、その健康施策の成果として社員が病気にならず健康な状態を保つということだけではなく、従業員のウェルビーイングを高めていく職場づくりをすすめようという考え方も提唱されています。

Q ウェルビーイングとはどういう考え方ですか。

A ウェルビーイングは、人々の人生に対する評価を示す幅広い概念で、職場や家庭での経験を経て変動するものです。人生の満足度で測定しようとする研究者もいれば「幸福」と翻訳する研究者もいます。私は健康経営では職場におけるウェルビーイングと限定して考える方がよいと考えています。具体的にはモチベーションや組織への愛着が高まっている状態ともいえるでしょう。職場で一人ひとりが病気でないだけでなく、わくわくしながら、かつ、ばりばりと働けている状態を実現するのがウェルビーイング経営です。

Q 健康経営とウェルビーイング経営の取り組みの違いは何でしょうか。

A 指標として健康経営よりポジティブな意味が入ってくるのがウェルビーイング経営です。病気でない状態を目指すだけでなく、仕事に対して意欲的に働ける状態、職場や同僚に愛着を感じながら働けている状態にも目を向けます。また従業員による自己管理能力を高めることにも注目しています。一部の大企業は昔から福利厚生としていろいろな設備、施設、保養所などを準備して社員に与えてきました。
しかし、設備や制度があっても、社員が自分でやらないと健康は手に入らないんだという意識が個人と組織との間で醸成され、実際に健康状態を維持する知識やスキルが身についてはじめて、成果につながるのです。
ウェルビーイング経営の元で自分の健康に気を付けるようになり、知識もついて自ら健康管理ができるようになったとします。そうすると退職後もそのスキルは残っていますから、自分自身で健康を管理できる人生を過ごすことができる。こうしたことが、ウェルビーイング経営によるひとつの価値ではないでしょうか。

社員の幸福を考えることがモチベーションアップにつながる

森永先生の取材を通して、社員の仕事に対するモチベーションアップの成功の鍵は、どうしたら社員が仕事に価値を見出してくれるかを社員と会社双方で追及することと言えそうです。会社の退社時間を早めるというような画一的な施策だけでは、経営の効果につながるどころか課題を生み出すこともあります。社員の健康増進をめざす健康経営は、社員にとっての幸福は何かという価値を追求し、社員のモチベーションをアップにつなげることで一歩先の取り組みとなっていくのではないでしょうか。

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この記事の監修

森永 雄太

武蔵大学 経済学部経営学科 教授

経営学における経営管理論、組織行動論を専門に研究、企業や団体を対象とした講演や研修活動にも取り組んでいる。
著書:『職場のポジティブメンタルヘルス―現場で活かせる最新理論』(誠信書房)、『日本のキャリア研究―専門技能とキャリア』(白桃書房)など。

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