自治体 健康増進

2020/01/09

自治体に広がるヘルスツーリズムの現状と参考事例

健康の維持・増進・回復を主なテーマとする「ヘルスツーリズム」が注目を浴び、導入する自治体が増えてきています。そこで、今回は自治体の健康増進を担当されている方向けに、ヘルスツーリズムの定義やヘルスツーリズム認証制度の概要、各自治体が取り組んでいる各種事例などについて紹介します。

旅行ニーズの多様化と健康の維持・増進・回復に対する意識の高まりに伴い、2018年には「ヘルスツーリズム認証制度」がスタートするなど、ヘルスツーリズムの取り組みが注目を浴びています。今回はヘルスツーリズムを導入したい自治体向けに、ヘルスツーリズムの基礎から実践事例まで解説していきます。

ヘルスツーリズムとは?

意味は文字通り「健康をテーマにした旅行」のこと

ヘルスツーリズムとは、「健康の維持・増進・回復を主なテーマとする旅行」のことで、ウエルネスツーリズムやウエルネストラベルとも呼ばれることもあります。ヘルスツーリズムは、多様化する旅行・観光ニーズに対応するとともに、地域活性化につながる新しい旅行「ニューツーリズム」の一形態です。ニューツーリズムの振興は政府の施策のひとつであり、ヘルスツーリズムの他にも、自然環境や歴史文化を対象に、その保全・持続可能性を考慮しながら体験する「エコツーリズム」、農村漁村地域で自然・文化・地域の人々との交流を滞在しながら楽しむ「グリーンツーリズム」、歴史的・文化的に価値のある工場・機械などを対象とする「産業観光」などがあります。

ヘルスツーリズムでは温泉療養をしながら、その地域ならではの食材・料理法を使用した食事を味わったり、観光名所をめぐったり、森林浴を楽しみながらのウォーキング、温泉プールでのアクアビクスなど、地域の自然環境や特製を生かしたさまざまな取り組みが行われています。これまでは海外で盛んに行われてきましたが、ここ数年、旅行ニーズの多様化や健康に対する意識の高まりに伴い、日本においても全国的に認知度が高くなってきています。

その一方で、ヘルスツーリズムの振興を目的とするNPO法人「日本ヘルスツーリズム推進機構」では「健康・未病・病気の方、また老人・成人から子供まですべての人々に対し、科学的根拠に基づく健康増進(EBH:Evidence Based Health)を理念に、旅をきっかけに健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する」としており、地域や民間との連携を定義には含めていません。
※引用:日本ヘルスツーリズム推進機構

共通しているのが「健康の増進・維持・回復」の観念で、温泉浴をしたり、健康によい食事を摂ったり、ウォーキングなどの運動をするだけでなく、旅行をきっかけに健康に対する意識や行動に変化を促すセルフ・エフィカシー(自己効力感)を高める役割も求められています。
他のニューツーリズムの形態と比べると、現在のヘルスツーリズムの市場規模は小さいものの、今後の市場拡大が期待されています。なぜなら、ヘルスツーリズムが対象とする領域は、医療的な要素の大きな治療・療養から楽しみの要素が大きなレジャーに近いものまであり、対象者も高齢者から若い女性・子どもまでと、他のニューツーリズムの形態と比べて領域も対象者も幅広いものとなっているためです。

自治体にとっては住民の健康増進のみならず観光客の集客手段にもなる

自治体がヘルスツーリズムを振興することで最も期待できることは、地域の住民や観光客の健康が維持・増進・回復が促された結果、地域の医療費が抑制されることです。その他にも、ヘルスツーリズムには次のような効果が期待できます。

・温泉や自然環境など以前からある地域資源を活用し、地域の新たな魅力を発信することによる観光客の増加。
・ヘルスツーリズムでは宿泊を伴うツアーが多く、滞在日数も従来の観光に比べて長くなることから、宿泊業・飲食業など地域での消費支出の拡大。
・地域独自の食材を使用する食事メニューや食品の開発・提供による地域の農水産業・食料品製造業・土産物店など小売業の発展。
・宿泊業・飲食業など従来の観光産業に携わる人々の雇用の創出と、新たなアクティビティを提供する際に必要となるインストラクターや施設の維持・管理スタッフなどの雇用の創出。

自治体にとってはどれも地域の活性につながる重要な効果であり、ひいては行政の負担が軽くなることも期待されます。

すでに全国的な広がりを見せている

ヘルスツーリズムを企画・実施・推進する組織は、市町村などの自治体だけでなく、ホテル・旅館などの観光関連事業者、温泉組合、観光協会、医薬品・化粧品などのメーカー、介護福祉事業者などさまざまで、各組織が連携しながら行う場合もあります。そして、ヘルスツーリズムが実施されている地域は、温泉地などを中心に北海道から沖縄まで、全国的な広がりを見せています。中には、地方だけでなく、東京や大阪、神戸などの都心部でも実施されている事業もあります。

認証制度の制定など国レベルの動きもある

2018年には消費者が安心してヘルスツーリズム関連サービスを選択し、利用できることを目的にした「ヘルスツーリズム認証制度」がスタートしました。経済産業省の「健康寿命延伸産業創出推進事業」の一環として始まった制度で、NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構・一般財団法人日本規格協会・一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構の3つの機関により構成される「ヘルスツーリズム認証委員会」によって認証されます。
認証審査においては、プログラムの内容や事業主体の取り組み体制など提供されるヘルスケアサービスについて、「安心・安全への配慮」「楽しみ・喜びといった情緒的価値の提供」「健康への気づきの促進」の3点が評価されます。認証を受けることで、利用者が個々のヘルスツーリズムプログラムの品質を一目で判断できるように「見える化」が進みます。また、認証有効期間は、初回認証から3年間有効で更新後は2年間有効となります。

申請受付は年3回、審査方法は文書審査方式で行われ、申請受付から3ヶ月程度で認証されます。申請受付から認証までの流れは次のとおりです。

<申請受付>
 ↓
<申請要件への適合確認、申請受理>
 ↓
<契約締結、初回認証審査料金の請求>
 ↓
<審査様式の送付>
 ↓
<審査様式への記入および資料提出>
 ↓
<審査の実施>
 ↓
<認証の判定、付与および公表>

2018年9月に第1期分として17のプログラムが認証され、2019年7月現在、全国で35のプログラムが認証されています。認証されたプログラムの一覧・内容については、ヘルスツーリズム認証委員会のホームページで公表されています。

ヘルスツーリズムにはどのような活動が含まれる?

日本ヘルスツーリズム振興機構では、ヘルスツーリズムの形態をウォーキングなどの「スポーツ・アクティビティ(運動)」、温泉浴などの「リラクゼーション(休養)」、地域ならではの健康的な食事を味わう「ヘルシーフード栄養」の3つに分類しています。また、ヘルスツーリズムでは、それぞれの形態を単体で行うプログラムよりも、温泉浴とウォーキング、運動と健康診断など、複数の形態を組み合わせて行うプログラムが数多く存在します。ここでは3つの形態の中から、代表的な6つの活動内容についてご紹介します。

ウォーキング

ウォーキングは、スポーツ・アクティビティの代表的な活動です。ガイドとともに地域の観光名所をめぐるウォーキング、森林や高原、海岸など豊かな自然を感じながらのウォーキング、専用のポールを使用して歩行するノルディック・ウォーキングなど、さまざまな取り組みがあります。ウォーキングでは、森林浴や温泉入浴などその他の活動を組み合わせたプログラムが数多く提供されています。

森林浴

森林の中で、水の音や風の音、小鳥のさえずりなどを感じながら、ハンモックでゆったりしたり、ヨガレッスンを受けたり、森林の中を散策したり、自然観察を楽しみながら、森林が与えてくれる癒し(森林セラピー)を体験する活動です。森林浴をすることで、日本における森林の役割や大切さを学ぶこともできます。

温泉浴

日本では昔から温泉地に逗留し、温泉浴をしながら療養するという湯治が行われてきました。ヘルスツーリズムの温泉浴は、療養・静養を目的とする従来の湯治スタイルを踏襲したものから、健康診断や体力測定などのメディカルメニューを取り入れたもの、ウォーキングや水中運動などの運動を取り入れたもの、地域の食材を使用した健康メニューの提供するものなどがあります。

水中運動

水中運動は、温泉地にある温浴施設やスポーツ施設のプールなどで、インストラクターの指導を受けながら、水中ウォーキングやアクアビクスなどの運動を行います。海水や海洋深層水、海泥などを利用したタラソセラピー施設(ホテルや温浴施設など)などでも行われます。

食事

主に地域の食材を使用した健康的なメニューを楽しむ活動です。温泉浴や運動などの活動を組み合わせて提供されることが多く、メニューの内容にはアレルギーや糖尿病・腎臓病など特定の疾患に対応したもの、ダイエットに対応したもの、玄米食中心のマクロビオテックなどがあります。収穫体験などを取り入れたプログラムもあります。

健康相談

温泉浴などを実施する施設に、看護師などの健康相談員が常駐し、滞在中の健康相談や入浴指導などを行います。その他、健康診断や体力測定などを行い、その結果に基づいた運動指導・入浴指導・栄養指導などを行うプログラムもあります。また、理学療法士などの専門家とともに旅を企画・実施し、機能の回復をめざすプログラムもあります。

ヘルスツーリズム企画の参考にしたい事例

自治体でツーリズムの企画を策定して導入することは大切な試みです。そこで、ヘルスツーリズム企画で参考にしたい5つの事例をご紹介します。

事例1:熊野古道健康ウォーキング

2008年第1回へルスツーリズム大賞を受賞したプログラムです。世界遺産・熊野古道の歴史・文化、自然にくわしい熊野セラピストが同行しガイドをします。熊野古道の樹木に触れたり、水の音、鳥の声を聞いたりなど、五感を刺激しながらウォーキングを楽しみます。疲れを残さないために、ウォーキングの前後や途中にストレッチを取り入れています。
コースは、3km(所要時間2時間30分~3時間)、4km(所要時間3時間~4時間)、7km(所要時間4時間~5時間)の3つのコースがあり、いずれもゴールは熊野本宮大社となっています。健康に配慮した弁当が用意され、ウォーキング後には「クアハウス熊野本宮」で温泉浴もできます。
世界遺産に登録されている天然温泉の岩風呂「つぼ湯」がある湯の峰温泉に宿泊付きのプログラムやバンガローの宿泊付きのプログラムもあります。

【地域】和歌山県・田辺市
【事業主体】NPO法人
【プログラム内容(7kmコース)】
 受付(熊野本宮館)
  ↓
 健康チェック
  ↓
 路線バスでスタート地点に移動(発心門王子)
  ↓
 ウォーキング(途中昼食)
  ↓
 熊野本宮大社参詣
  ↓
 熊野本宮館到着・解散

事例2:こころ・からだ よみがえる 健康ながゆ旅

ヘルスツーリズム認証プログラムのひとつで、世界屈指の高濃度炭酸泉である長湯温泉での温泉浴とともに、森林浴をしながらのウォーキング、地元食材を使用したオーガニック料理やスイーツを楽しみます。ウォーキングの途中には、樹齢1000年以上の大欅がそびえるパワースポット・籾山神社を参詣、飲泉所では長湯温泉に古くから伝わる飲泉も体験できます。所要時間は4時間前後です。
ウォーキングの開始前と温泉浴の後には、長湯温泉療養文化館「御前湯」内にある温泉利用相談室にて専門の相談員による健康チェックが行われます。入浴後のチェックでは、今後の生活に役立つアドバイスも受けられます。

【地域】大分県竹田市
【事業主体】観光協会
【プログラム内容】
 「御前湯」で健康チェック
  ↓
 ウォーキング開始
  ↓
 豆腐店で湧水を使用した豆乳とシフォンケーキを味わう
  ↓
 籾山神社を参詣
  ↓
 飲泉所で飲泉体験
  ↓
 カフェで有機食材を使用したオリジナルメニューを味わう
  ↓
 「御前湯」で入浴
  ↓
 健康チェック

事例3:DAZAI健康トレイル 青森ひばの神木コース

こちらもヘルスツーリズム認証プログラムです。日本三大美林である「青森ひば林」と森の中に眠る産業遺産「津軽森林鉄道軌道跡」、地元出身の文豪・太宰治の生家をめぐるウォーキングです。森林浴をしながらのウォーキングとともに、奥津軽の歴史・文化についても学ぶことができます。ウォーキングの前後には健康測定を実施し、ウォーキング途中の冷泉では森林セラピーの一環としてドイツ発祥の自然療法であるクナイプ療法を体験できます。昼食は健康に配慮したお弁当が用意されています。積雪地帯のためプログラムは4月後半から11月前半まで。距離は16km、所要時間は7時間30分程度です。

【地域】青森県五所川原市
【事業主体】NPO法人
【プログラム内容】
 受付・健康チェック・オリエンテーション
  ↓
 ウォーキング開始
  ↓
 昼食・クナイプ療養・森林浴など
  ↓
 太宰治記念館「斜陽館」見学
  ↓
 健康チェック・解散

事例4:クアオルトバランス膳・早朝ウォーキング

上山市は第4回ヘルスツーリズム大賞を受賞するなど、ヘルスツーリズムに取り組む先進的な地域として知られています。上山市が提唱する「クアオルト」とは、ドイツ語で「健康保養地・療養地」を意味します。ドイツ・ミュンヘン大学に認定されたウォーキングコースを中心に、自治体や宿泊施設、飲食店など地域ぐるみでヘルスツーリズムに取り組んでいます。
「クアオルトバランス膳・早朝ウォーキング」のプログラムは、上山温泉にある旅館で過ごす1泊2日のプログラムです。栄養バランスを考慮した「クアオルトバランス膳」と温泉浴を楽しむとともに、翌日には蔵王連峰から登る朝日を眺めながら早朝ウォーキングを行い、クナイプ療法の他、抱きつ木ストレッチやロコモチェックなどのさまざまな運動プログラムを体験します。

【地域】山形県上山市
【事業主体】温泉旅館
【プログラム内容】
 説明
  ↓
 クアオルトバランス膳体験
  ↓
 振り返りと調理方法などのご提案
  ↓
 温泉浴
  ↓
 宿泊
  ↓
 早朝ウォーキングと運動プログラム
  ↓
 朝食

事例5:ちょうしがよくなるヘルスツーリズム 銚子潮風ウォーキング

犬吠埼など日本ジオパークに認定された銚子の大自然を感じながらウォーキングをします。所要時間は2時間30分程度で、60歳以上のシニアを対象にしています。潮風を受けながらのウォーキングとともに、転倒予防体操や脳トレなどシニア向けのプログラムを取り入れ、EPA・DHAが豊富な海の幸、ミネラル豊富な野菜など、銚子の食材を使用した昼食も用意されています。こちらもヘルスツーリズム認証プログラムです。

【地域】千葉県銚子市
【事業主体】NPO法人
【プログラム内容】
 オリエンテーション・健康チェック
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 準備体操
  ↓
 海岸線などをウォーキング
  ↓
 昼食
  ↓
 転倒予防体操
  ↓
 脳トレ・栄養レクチャー

ヘルスツーリズムを導入した自治体では、地域の特色を生かした健康増進のプログラムが考案され、実際に運用が始まっています。行政の問題や地域の活性化にもつながるため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

編集部

ヘルスケア通信の編集部

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