自治体 健康増進
2018/07/27
「健康ポイント」とは、住民の健康づくりのための運動や健診受診に対し、ポイントを付与することでインセンティブを提供する事業で、導入自治体が広がっています。この記事では制度の概要と事例を取り上げ、取り組み成功のコツを紹介します。
「健康ポイント」とは、住民の健康づくり推進のためにインセンティブを提供する制度、事業のことをいいます。
参加する住民が健康づくりのために運動をしたり、健診を受けたりすることでポイントがもらえるという仕組みで、導入する自治体が広がっています。
この記事では健康ポイント制度の概要をご説明するとともに、自治体における導入事例を取り上げ、取り組みを成功させるためのコツをご紹介します。
目次
健康ポイントとは、インセンティブによって健康無関心層の行動変容を促し、健康づくりに誘導するための施策です。
その対象となる「健康無関心層」とは、ふだん運動する習慣がなく、自分自身の健康にあまり関心を持たない人々のことを主に指しています。
このほかにも、運動や健康づくりの必要性を認識していながら、なかなか具体的な行動に結びつかない人々も対象に含まれます。
ウォーキングをしたりトレーニングジムに行って運動をしたり、あるいは定期的に健康診断や保健指導を受けるなど、健康の維持・増進のための活動に対してポイントを付与します。
ポイントがたまると景品やクーポンなどの特典と交換できるというメリットがあるため、やってみようという動機づけになり、続けていく上でのモチベーションにもつながります。
そのプロセスは、以下の3つの段階に分けて考えることができます。
・第1段階:健康づくりに参加するきっかけ作り・動機づけとして健康ポイントを活用
・第2段階:健康づくりの継続に対する支援として健康ポイントを活用
・第3段階:健康づくりの取り組みが習慣化・定着した後のフォロー(健康ポイントに依存しない自主的な取り組みの支援)
また、インセンティブの提供については、ポイントの付与にあたって何を指標にするかによって、以下の3つの方法があります。
・参加型:健康づくりの取組やプログラムへの参加を評価するもの
(例:健診の受診やスポーツ教室への参加など)
・努力型:健康づくりのプログラム等の中での本人の努力を評価
(例:ウォーキングやジョギングを行った回数や距離、体重・血圧・食事などの記録の継続)
・成果型:健康づくりの成果としての健康指標の改善を評価
(例:健診の検査数値の改善、減量など)
参考:厚生労働省「個人の予防・健康づくりに向けたインセンティブを提供する取組に係るガイドライン」
様々な自治体が、健康ポイント制度で健康無関心層の行動変容を促し、健康づくりへの誘導を目指して施策を実施しています。
ここでは健康ポイント制度の導入で実績を上げている自治体の取組み事例について見ていきたいと思います。
概要
住民の健康づくりを応援する新しい仕組みとして、日々の運動や食事などの目標を達成できた場合や、健康診断の受診、禁煙、健康講座やスポーツ教室、ウォーキングイベント、地域行事・ボランティア活動などに参加した場合にポイント(マイル)を付与します。
2週間以上チャレンジして一定ポイントを達成した人には、協力店でサービスが受けられる「ふじのくに健康いきいきカード」(1年間有効)を発行します。
対象
4月1日現在、18歳以上で藤枝市に在住・在勤・在学している人
参加方法
Web版と紙版が選択できます。
Web版は携帯電話、スマートフォン、パソコンで健康マイレージの記録から申請までのすべてが簡単に行えます。
紙のチャレンジシートは、保健センター、市役所、岡部支所、各地区交流センター、健康マイレージ協力店等で配布しているほか、チャレンジシートをダウンロードして使用することもできます
ポイントの付与
毎日の健康行動のポイント指標として「運動」「食事」「休養」「歯」「体重計測」の5項目が実践できると「丸」がつきます(丸ひとつにつき2ポイント)。
また、「特定健診・人間ドック等の受診」「がん検診の受診」や「イベント・健康講座・地域行事に参加」、「ボランティア活動」、「禁煙」でボーナスポイントが付与されます。
チャレンジ期間は2週間以上継続する必要があり、合計100ポイント以上たまったらゴールです。
ポイントの利用
専用Webページでカード申請をクリックして申請情報を入力すると、数日以内に「ふじのくに健康いきいきカード」(1年間有効)が交付され、協力店でこのカードを提示することで特典が受けられます。
この「ふじえだ健康マイレージ」の取り組みは、「第1回 健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働省健康局長 優良賞(自治体部門)を受賞しています。
実績/評価
1.参加者の感想:「満足度」が高い
・毎日の歯磨きやウォーキングが習慣化され、健康につながるなどの声
2.「啓発ツール」としての活用実績・効果
シティプロモーション効果大
・出前講座、県内外事例報告への派遣要請、行政視察受入急増
・市ホームページの閲覧件数増加
・企業や商店等の訪問用ツールとして活用
3.経常経費がかからないシステムとしての社会的評価
・費用対効果が高い
概要
18歳以上の横浜市在住・在勤・在学の方にウォーキングを通じて楽しみながら健康づくりをしていただく事業です。
歩いた歩数に応じてポイントが付与され、ポイントに応じて抽選で商品券等が当たります。
対象
18歳以上の横浜市在住・在勤・在学の方
参加方法
参加者に無料で歩数計をプレゼント(送料のみ自己負担)。協力店舗などに設置されるリーダーに歩数計をのせると歩数が転送され、専用ホームページで歩数データを見ることができます。
2018年4月から歩数計アプリの配信を開始。スマートフォンアプリをダウンロードして参加することができます。
また、横浜市内に所在する法人などの場合、各事業所の担当者が横浜市健康福祉局保険事業課に届出をしてエントリー登録をすれば、事業所単位での参加も可能です。
ポイントの付与
1日に2,000歩以上歩くと、歩数に応じて1〜5ポイントが付与されます。1日最大5ポイントまで、ポイントの有効期限は毎年12月末まで。
ポイントの利用
「定期自動抽選」として、200ポイント以上達成した方を対象に3か月ごとに抽選を行い、当選した方に商品券等をプレゼントします。
このほか、「Wチャンス抽選」として、年間累計ポイントによる抽選も行います。
この「よこはまウォーキングポイント」の取り組みは、「第5回 健康寿命をのばそう!アワード」厚生労働大臣 自治体部門 優秀賞を受賞しています。
実績/評価
2014~2017年の第1期では、参加者30万人の目標を達成。
2018年4月からの第2期は、それまでの歩数計に加えスマートフォンアプリ開始しました。
第2期では歩数計で年間5,000人、アプリで年間25,000人の参加者を想定していましたが、スマートフォンアプリで2018年4月の配信スタートから約2ヶ月で想定の30%を超えるダウンロード数を達成しています。
※「よこはまウォーキングポイント」の事例はコチラ
概要
運動や健診の受診など、健康づくりに取り組むとポイントがたまり、サービスや特典が受けられます。
対象
18歳以上の住民
参加方法
スマートフォン用アプリでの参加と、紙の活動記録票での参加の2種類があります。
スマートフォン用アプリからする場合は、アプリで健康づくり活動の記録や管理ができ、自動でポイントがたまります。
活動記録票で参加する場合は、参加申込後に健康増進課から送付される活動記録票に自分で健康づくり活動を記録し、定期的に提出することでポイントがたまります。
ポイントの付与
・「歩く/自転車に乗る」:活動量に応じて2〜9ポイント/毎日
・1日の目標活動量の達成:3ポイント/毎日
・1週間の目標活動量の達成:10ポイント/毎週
・体重の適正化(BMIの改善または基準値を維持):10ポイント/毎月
・その他、事業参加開始時のボーナスポイントや、取組課題の達成、各種イベントへの参加もポイントの対象です。
ただし、たまったポイントは1年間でリセットされ、次年度に繰り越すことはできません。
ポイントの利用
1年間でたまったポイント(上限5000ポイント)は、翌年度にバスカード、図書カード、市の施設利用券などに交換又は寄付することができます。 ただし、交換できる期間は、事業に参加してから3年までです。 1年間で3,000ポイント以上たまった場合は、翌年度に飲食店などで使える「割引券」と交換できるほか、抽選で協賛企業が提供する品物がもらえます。
実績/評価
2018年4月1日から実施後1カ月で2018年度目標5,000人の半数2,500人を達成。
5月1日時点で、アプリが18~74歳の約2,000人、活動記録表が27~92歳の約600人。30~40代が主要ターゲットですが、幅広い年齢の男女が参加。2022年までに22,000人の目標を掲げています。
埼玉県「コバトン健康マイレージ」は平成30年度(2018年)にスタートしました。
これまでに紹介した事例は市町村単位の取組みでしたが、埼玉県「コバトン健康マイレージ」は、データ送信機能付きの歩数計を使った「県下全域」で取り組んでいる健康ポイント事業です。
概要
ウォーキングや特定健診の受診などでポイントがたまり、抽選で賞品が当たります。
県が構築したシステムを市町村・事業者・保険事業者などが利用することで、県民の健康づくりの一層の拡大を目指しています。
対象
埼玉県内25市町村、事業者、保険者の各団体に所属している18歳以上の方(※一部市町村で条件の異なる地域あり)。
参加方法
歩数計等の場合は、郵送またはWEBサイトで申し込むとデータ送信機能付きの歩数計が送付されます(数量限定でウエアラブル活動量計も利用可能)。
市町村役場や保健所(保健センター)、企業、店舗などに設置の専用のタブレット端末に歩数計をかざすと歩数が送信されます。
スマートフォンアプリの場合はWEBサイトから参加登録後、「埼玉県コバトン健康マイレージアプリ」をダウンロードし、アプリから歩数を送信します。
ポイントの付与
1日に3,000歩以上歩くと、歩数に応じて300〜1,500ポイントが付与されます。
楽しみながらポイントを貯めることができるように、歩数送信ポイントやランキング上位者へのボーナスポイントなども各種用意しています。
3か月間で30,000ポイント貯めるごとに抽選権を1口獲得できます。
ポイントの利用
3か月間で30,000ポイントためるごとに抽選権を1口獲得できます。
抽選は3か月に1回実施(自動エントリーで応募不要)。埼玉県産農産物や企業協賛による賞品が当たります。
※「埼玉県コバトン健康マイレージ」の事例はコチラ
健康ポイント制度が期待した成果を上げられるかどうかは、制度設計や運用の仕方で大きく変わる可能性があります。注意すべき点を以下にご紹介します。
ポイントの大きさと必要な運動負荷の関係を明示しないと誤解を与え、参加率に悪影響を及ぼす恐れがあります。
たとえば、どれくらい頑張れば達成できそうかよくわからない場合、あまりに高いポイント数を見るとそれが運動負荷の大きさを表わすと誤解され、チャレンジする人が少なくなってしまいます。
決められた運動量をクリアすることでポイントが付与される「努力型」と、運動の結果として数値の改善などが評価されてポイントが付与される「成果型」を比べた場合、努力型のほうが好まれる傾向があります。
(参照:「ICTによる健康づくり無関心層への アプローチモデルの重要性」筑波大学 久野研究室)
これは結果よりも過程を評価することが、より大きな行動変容をもたらすということを示しています。
健康ポイントは、国が推進しているという背景もあり、自治体を中心に健保組合や事業者を巻き込んで取り組みが広がっています。
取り組みを成功させるには、他の自治体の先行事例を参考にしながら、そこに自治体の持つ独自の地域性を加えることが住民を巻き込んでいくうえで重要です。
これから健康ポイント事業を開始する自治体の担当者にとっては、住民の行動を促すための要件を的確に押さえた計画・実施を自治体内のみのリソースで行うことは容易ではありません。
健康ポイント事業において、様々な自治体のサポート実績のある企業とコラボレーションすることは、その知見が活用でき、事業立ち上げの迅速化や実施時のリスク回避に繋がる選択肢の一つになると考えられます。
編集部
ヘルスケア通信の編集部
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