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「働き方改革」と「健康経営」の両輪で取り組む健康体質企業への転換

働き方改革や健康経営という言葉がなかった頃から、他に先駆けて職場環境の改善や社員の健康維持に力を注いできた情報通信業大手のSCSK株式会社。トップの熱い思いを起爆剤に、現在では社員一丸で健康経営に取り組む同社の戦略的な実践方法や仕組みづくりについてうかがいました。

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働き方改革や健康経営という言葉がなかった頃から、他に先駆けて職場環境の改善や社員の健康維持に力を注いできた情報通信業大手のSCSK株式会社。トップの熱い思いを起爆剤に、現在では社員一丸で健康経営に取り組む同社の戦略的な実践方法や仕組みづくりについて、篠原貴之さん(人事グループライフサポート推進部長(取材日時点))にうかがいました。

SCSK株式会社の篠原貴之さん

 

今こそ変革の時!長時間労働からの脱却

SCSK株式会社の篠原貴之さん

コンサルティングから、システム開発、ITインフラの構築など、幅広いITサービスを提供するSCSK株式会社は、グループ全体で1万2000人、同社単体でも7300人ほどの従業員を抱える大手IT企業です。

経済産業省が選定する『健康経営銘柄』(※)に5年連続で選ばれるなど、働き方改革や健康経営の先駆的な取り組みで注目を集めています。

そんな同社も、以前は多くのIT企業と同様に長時間労働などが常態化している状態でした。
しかし2011年の経営統合を契機に、それまでの企業体質を改善する方向へと舵を切ったと篠原さんは説明します。

「生粋のIT業界出身ではない経営者が社長に就任したことも影響しているかもしれませんが、長時間の残業や休日出勤などで疲弊しきっている当時の現状は、“人=財産”と考える社長にとって危機的状況に感じられたようでした

また、IT業界を始め技術職の現場は労働集約型に陥りがちですが、「今後は付加価値やアイデアで差別化を図っていくべき」という認識も持ち合わせていたと言います。

「これから先を見据えた時、働き方の抜本的な変革が必要という経営トップの強い想いのもと、自らが旗振り役となって健康経営を推し進めていきました」
その想いは、『夢ある未来を、共に創る』という経営理念にも表れています。

残業時間削減を実現した経営トップの熱意

SCSK株式会社の篠原貴之さん

具体的な施策として、最初に取り組んだのが働きやすい職場づくりでした。
「社員の健康増進に取り組むにしても、当時の職場環境では上手くいかないと考え、まずは働き方改革からスタートし、その上で健康づくりを目指すというシナリオで進めていきました」

そこで実施したのが、残業時間の削減と有給休暇の取得を目指した『スマートワーク・チャレンジ20』です。
月間平均35時間、多い月には100時間になる人もいたという残業時間を平均20時間に大幅削減し、年次有給休暇も100%の20日取得を目標に掲げました。

ただ、そうはいっても夜間の問い合わせや作業も多く、当時は夜遅くまで残る社員をよしとする風土が根付いていた状態。
その中で、残業時間削減を社内に浸透させ着実に進められた要因は、経営トップの並々ならぬ決意に他なりません。

「いくら売上利益を出している組織であっても、残業が多かったり有給休暇が取れていなかったりする場合は、その組織の責任者を評価しないということを、社長は明確に伝えていました」

さらに役員会議などでは、社長が組織の責任者に対して現場の改善状況を厳しく追及し、取り組みの徹底を図っていたそうです。

「そうした会議の様子やコメントは、社内のポータルサイトで共有されていたため、多くの社員が働き方改革に本気で取り組む経営トップの想いを感じることができました。そのことが、役員層から現場の社員まで一枚岩となって取り組んでいく原動力にもなっているのだと思います」

社員がモチベーションを持って取り組めるように、残業代を還元する仕組みを導入したこともポイントです。

「社員の気持ちとしては、仮に残業時間が減ったとしても、その分収入が減るのであればモチベーションは上がりません。コスト削減が目的でないことを示すためにも、減った残業代を社員に還元することにしたのです」

このように、現場の社員が働き方改革に取り組みやすい体制を構築したことで、残業時間は右肩下がりで減り続け、2017年度は16.4時間にまでに減少。
有給休暇も平均取得日数19日間と大きく改善しました。

SCSK株式会社 残業時間・有休取得日数の推移

さらに篠原さんは、働き方改革による健康面でのメリットも指摘します。

「それまではマンパワーに頼りがちだったため、どうしても体調を崩す人や精神的に不調をきたす人も少なくありませんでした。ですが働き方改革を実施したところ、残業時間に比例する形でメンタルを原因とする休職者の数も減っていきました 

ダイバーシティや女性の活躍にも一役

SCSK株式会社の篠原貴之さん

働き方改革のもう一つの柱として進めていったのが『どこでもWORK』です。 

社内では、自席を設けず自由な場所で仕事ができるフレックスアドレスを導入。
在宅やサテライトオフィスでの勤務を推奨するリモートワークを実施するなど、外にいても社内と同じように働ける環境を整えました。

2015年より段階的にスタートさせ、現在では社員の半数近くが月平均2回程度リモートワークを実践しているそうです。

こうした新しい取り組みであっても、社員にしっかりと定着している背景として、篠原さんはそのための仕組みづくりを戦略的に行っていることが奏功していると強調します。

例えば、管理職が月平均2回以上リモートワークをするとその部署に対して2倍のインセンティブを付与するルールを設けたこともその一つ。

「まずは管理職に率先してリモートワークしてもらうことが必要でした。『サボってるんじゃないか』とか『管理職がそんなことやっていていいのか』など、最初はネガティブなイメージも持っていた人も、実施してみると社内と変わらず仕事ができることが分かるので、まずは実践してみてメリットを実感できるように道筋をつくっていきました」

ダイバーシティや女性の活躍推進としても貢献しており、育児や介護のために時短勤務で働いていた人が、どこでもWORKをうまく活用してフルタイムに戻るというケースも増えつつあります。 

出産・育児からの職場復帰率も96.8%と高く、女性社員の数もまだ全体の2割程度ながら着実に増加しています。
新卒入社者も4割程度が女性となっており、女性が働きやすい職場としての認知拡大にもつながっているようです。 

健康への行動習慣と意識が大きく変化

SCSK株式会社の篠原貴之さん

健康経営に関する施策としては、ウォーキングや禁煙推進など、社員の健康維持・増進につながる様々なキャンペーンを展開してきました。
その中でも、最も大きな取り組みと言えるのが2015年に開始した「健康わくわくマイレージ」です。

健康わくわくマイレージは、よい行動習慣の定着や健康診断結果の良化を目的として実施されたもの。
これから先を見据え、生涯現役を実現できる健康的な体づくりを目指しています。

SCSK株式会社 健康わくわくマイレージ 推進のポイント

具体的には、「ウォーキング」「禁煙」「歯磨き」「休肝日」「食」の5つの行動習慣を毎日記録し、月単位でポイント化。
さらに健康診断結果もポイント化し、1年間で獲得したポイントに応じてインセンティブを支給する仕組みです。

また、インセンティブには個人と組織の2つを用意していることも特徴です。
目標に向かって一人で頑張るだけでなく、組織的に取り組む仕掛けにすることで、一人ひとりが責任感をもって実践するようにしています。

日々の行動習慣だけでなく、なぜ取り組むのかといった社員の健康リテラシー向上にも積極的です。
全社員を対象にしたe-learningや部課長向けの集合研修など、行動だけでなく健康に対する意識の変化も促しています。

そのような取り組みを積み重ね、実施から3年がたった2017年では、ウォーキング実施率が約8割、朝食摂取率は約9割を達成。
「休肝日実施率」「歯科健診実施率」「喫煙率」も順調に推移している他、健康に対する意識が高い人の割合も大幅に増加するなど、成果がしっかりと数値に表れています。 

健康経営が企業と社員の成長を後押し

SCSK株式会社の篠原貴之さん

健康わくわくマイレージの参加率は、任意の取り組みでありながらも毎年99%を達成。
さらに、健康リテラシー研修の参加率は98%、健康に関するアンケートの回答率は90%といずれも高く、その数字からも社員が一丸となって取り組んでいることがうかがえます。 

そのような行動へと社員を突き動かす背景として、「手厚い健康サポートに対する感謝の気持ちもあるのでは」と篠原さん。 

「最初の頃は社員も“やらされている感”はありましたし、残業時間を減らすなど無理に決まっていると思っていた人も少なくありませんでした。しかし、取り組みを進めていくに伴い、プライベートが充実したり、家族との時間が増えたりと、メリットを実感していった人は多かったと思います」 

健康経営も同様で、例えば喫煙者にとって「余計なお世話」と思われがちな禁煙推進の取り組みも、今では「タバコがやめられる環境をつくってくれてありがたいと思っている」と話す社員もいるほど。
健康への第一歩を踏み出せるように、会社が背中を押してくれたという感謝の思いが芽生えているようです。 

また、働き方改革や健康経営の取り組みは社員の生産性や創造性、企業価値の向上につながり、それによって付加価値の高いサービスの提供が可能になるといった好循環が生まれます。 

実際に、経営統合を行った2011年と17年を比較すると、残業時間は半分近くまで減少しているのに対し、営業利益は倍以上に増えています。
健康経営の取り組みが、社員と企業の両方の成長に大きく寄与しているといえそうです。 

継続こそが健康経営を成功させるカギ

SCSK株式会社の篠原貴之さん

今後の取り組みとしては、喫煙率を一桁にすることや特定保健指導の実施率を上げることなど課題は多く、「まだまだ道半ば」と篠原さん。 

その中でも特に意識しているのが、健康経営の火を絶やさないことだと言います。 

「当時の経営トップがよく言っていたのが『塑性変形』という言葉です。塑性変形とは、物体に力を加えて変形させたものが、力を抜いても変形したままの状態になっていること。これまで進めてきた働き方改革や健康経営の取り組みを、以前の状態に戻ることなく、今後も続けていくということです」 

篠原さんは、この継続力が健康経営には不可欠であり、強い意思を持って続けていくことが成功のカギだと話します。 

「健康経営はすぐに結果が出るものではないので、短期間の費用対効果を追求すると続けることが難しくなります。それでも担当者になったからには『自分がやっていることは社員や会社にとって必要なことだ』と信じて続けていくことが大切だと思っています」

実際に同社が行っている健康経営も、長く続けていく中でトライ&エラーを繰り返しながら現在の形になっていると説明します。 

「健康」は誰にとっても大切なテーマではありますが、身近にありすぎるために、その大切さはつい忘れられてしまいがち。 

「だからこそ、時に手を引っ張ったり、背中を押したりしながら、社員がモチベーションを持って健康に取り組める工夫が企業には求められています」

まとめ

健康増進のためのコンテンツと、それを実行に導くための仕組みづくりの歯車がガッチリと噛み合った同社の取り組みに、今後も期待と注目が集まります。 

※経済産業省と東京証券取引所が共同で実施しているもので、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組む上場企業を「健康経営銘柄」として選定している。
※「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。