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経済産業省に聞く:健康経営のメリット・成功の秘訣とは?企業への期待とは?

経済産業省は平成26年度、東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を、平成28年度には未上場の企業や法人も対象とした「健康経営優良法人認定制度」を創設。今年度は、企業向けの「健康経営度調査」の設問項目に女性の健康課題が盛り込まれたことでも関心を集めています。

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経済産業省は健康経営に取り組む企業や法人の「見える化」に取り組み、平成26年度、東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を、平成28年度には未上場の企業や法人も対象とした「健康経営優良法人認定制度」を創設。今年度は、企業向けの「健康経営度調査」の設問項目に女性の健康課題が盛り込まれたことでも関心を集めています。

経済産業省の紺野春菜さんと 、ドコモ・ヘルスケア株式会社 代表取締役社長 和泉正幸

働き方改革が進むにつれ、健康経営の重要性が再注目されています。
今回は、健康経営を推進する経済産業省の紺野春菜さん(商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 係長・以下敬称略)に、健康経営を行う企業のメリットや、健康経営銘柄企業や健康経営優良法人へ込める期待などについて、和泉正幸(ドコモ・ヘルスケア株式会社 代表取締役社長/取材当時)が伺いました。

 

健康寿命を延ばすという発想から生まれた“健康経営”

——— まずは、政府が健康経営を推進する背景について教えてください。

「背景としては、日本が世界に先駆けて突入した“超高齢社会”という大きな社会課題から始まっています。

高齢化と共に膨らみ続ける医療費の問題に向き合う中、まず注目したのが“健康寿命”です。平均寿命は男女共に80歳を超え、“人生100年時代”といわれるようになった一方で、介護を必要とせず生活できる健康寿命が、平均寿命より男女共に約10年も短い。
健康寿命を延ばすには若いうちから、特に一日の中で最も長い時間を過ごす会社で無意識に健康的な取り組みができるのがベストなんです

“健康経営”という言葉自体は健康経営研究会理事長の岡田邦夫先生が以前から提唱されていたもので、我々が活用させていただいています」(紺野さん)

企業が健康経営に取り組む3つのメリット

経済産業省 紺野春菜さん

——— 健康経営の実践は、社会課題への貢献という以上に企業にとってのメリットも考えられると思いますが、いかがでしょう。

健康経営を行うことで、大きく次の3つの効果によって、企業業績の向上や持続的成長につながると考えています

①心身の健康改善による生産性の向上 
事故・労災等のリスクや、疾病による生産性損失の軽減。

②組織の活性化 
仕事の満足度やエンゲージメント(企業への愛着心や仕事への前向き度等)の向上、および離職率の低減。

企業のブランド価値の向上
 企業のイメージアップによる優秀な人材の確保や、顧客満足度・商品ブランドの向上。

「短期的なメリットとして挙げられるのは、③に含まれる“人材の確保”です。
健康経営銘柄や健康経営優良法人になった企業からは『就活生向けセミナーに以前の倍ほど参加者が集まった』『内定後の辞退率が減った』というお声もあります。離職率の低下に関するお声もありますが、中・長期的な効果と言えるため、具体的な分析はこれからという段階ですね。

そして多くの企業がまず目指されるのは①の“生産性の向上”です。
定期健診の受診率100%を目指す、生活習慣を整えてプレゼンティーイズム(何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態による損失)を改善する、といった努力をされています。

ただ今後、我々として重要視したいのは②の“エンゲージメント(企業への愛着心や仕事への前向き度等)”の部分
①“生産性の損失を減らす”というのはあくまで損失を埋めることであり、それ以上のイノベーションには限界があります。①を進めながら「今後何をすればよいのか?」と悩まれている企業にはぜひ健康経営によるエンゲージメントの効果も意識していただきたい。

実際、健康経営を実施する(株)丸井グループの研究によると、『食事の量や内容に気をつけている』『よい睡眠がとれている』と答えた従業員は、そうでない従業員に比べて仕事の取り組み姿勢が前向きである(エンゲージメントが高い)という結果も3年間連続で出ています(*)」

*出典 2017年9月発行丸井グループ共創経営レポート

———— 健康経営で得られるメリットは、様々な企業が“働き方改革”で狙う方向性と同じように思います。どちらも取り組むことで、さらに効果が高まるのでしょうか。

「そうですね。経済産業省として目指すゴールは、企業業績が上がり経済が活性すること。人材に特化した要素として、働き方改革やダイバーシティ、そして健康経営があります。これらを複合的に行うことがポイントかもしれません。

単純に残業時間を減らすだけでは仕事は減りません。
一方で、健康経営の実践による生活習慣やプレゼンティーイズムの改善というアプローチをすることで、短い時間で効率よく仕事ができるようになると考えられます。
同時に業務改革を行って余計な仕事を減らす必要もありますね」

成功のカギは明確な企業課題と健康経営を行う目的

ドコモ・ヘルスケア株式会社 代表取締役社長 和泉正幸

——— これまで多くの企業の取り組みをご覧になられたと思いますが、健康経営に成功している企業に共通することは何ですか。

やはり企業課題と健康経営を行う目的が明確になっている企業は、大企業でも、中小企業でも、うまく回っている印象があります

電線大手の(株)フジクラでは、社員一人ひとりが活き活きと働くためにはどうしたらよいかという課題からスタート。2010年には、社員の健康増進・疾病予防を経営方針の一つに定め、2013年に『フジクラグループ健康経営宣言』を発表されて以来、健康増進プログラムを自社開発して社員に提供するなどの施策を推し進めています。

中小企業の事例としては、東京の広告製版会社、(株)浅野製版所があります。
健康経営と業務改革を進められたところ、業績の悪化が止まり、残業時間が減っただけでなく、業務に対する心理的な負担が軽減されたことで、社員の睡眠の質が改善したという結果が出ています」

——— なるほど。健康経営と言っても、ただの健康増進の取り組みではなく、会社の経営課題と結びつけながら取り組んでいくことが大事なのですね

参加企業が増え国際的な認知度もアップ

経済産業省の紺野春菜さんと 、ドコモ・ヘルスケア株式会社 代表取締役社長 和泉正幸

——— 経済産業省では健康経営の普及に向けて、企業がメリットを享受しやすいよう、「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人認定制度」といった各種の健康経営顕彰制度を推進されていらっしゃいますね。

「健康経営優良法人(大規模法人部門)は通称“ホワイト500”と呼ばれ、そのキャッチコピーが奏功してか、健康経営度調査への参加企業は増加傾向で、昨年度は1239社、今年度は1800社になりました。

特に、多くの企業がこの健康経営優良法人になっているような業界ですと、そうでない企業が業界の中で『まだとっていないの?』という感じになりつつあるようです。
医薬品や保険などの業界ではかなり多くの企業が参加していますが、最近では外資系企業の日本法人も関心を持ってくださっています」

——— 国際的にも認知度が上がっているのでしょうか。

経済産業省では現在、健康経営を海外に普及する活動も行っており、特に米国商工会議所には高い関心を持っていただいています

アメリカでも各企業が健康経営に取り組んでいます。2011年には、ジョンソン・エンド・ジョンソンが全世界約11万4000人のグループ従業員に対し実施したところ、投資1ドルに対し3ドルのリターンが出た、という研究データも発表されています。

ただアメリカでは日本のように国が主導し、地方の中小企業まで大々的に普及している事例はないので、そこをうまく繋げてお互いに盛り上げていきたいですね」

女性の健康も業績に影響を与えることが明らかに

——— 昨年度の改定では、女性の健康課題についての質問項目が新たに加わりました。これはどのような理由からでしょうか。

「きっかけのひとつに、健康経営関連団体が行ったアンケート結果があります。
健康経営を実践する上で、次に行いた取り組みは何かという質問に対し、一番多かったのが“女性の健康”でした

我々のところにも『女性の健康にもう少しフォーカスして欲しい』という非常に多くの意見をいただいていたので、今後どのように考えていけばよいかという整理を始めました。

そもそも、これまでの健康経営はよくよく考えるとメタボ対策が主体であり、働く世代のメタボはほとんどが男性であることを考えると、男性主体の取り組みであったとも言えます。
一方で、日本の全従業員の44%(2016年)を占める女性の「月経に伴う問題」は病気とは限らないケースが多いことから、健康経営に組み込むことについて内部でも様々な意見が出ました。

しかし月経に伴う症状による労働損失の試算は、年間4911億円。
企業にとっての生産性の喪失という点では見過ごせない問題です。

そしてまとめたのが、次の5つの女性の健康課題です。

  1. 女性が比較的多い職種(接客業・コールセンター等)における課題(メンタルヘルスや喫煙率の増加など)
  2. 月経における課題(プレゼンティーイズムの損失やリテラシー不足など)
  3. 女性特有の疾病における課題(仕事の両立や婦人科検診の有無など)
  4. 妊娠・出産における課題(キャリアチャンスの喪失など)
  5. 更年期障害における課題(キャリアチャンスの喪失など)

各企業でワークライフバランスが進む中でも、不妊や更年期障害などへの支援はほとんど行われておらず、これらが原因で多くの女性が様々なことを諦めています。
そこで健康経営においてこうした視点も取り入れることにしました」(紺野さん)

——— 企業ごとの温度差が一番大きいのが、このテーマのような気がします。
非常に意識が高い企業と、反応が薄い企業と大きく二極分化されているようですが、やはり積極的に取り組もうとされている企業には、女性が本当に活躍されているところが多い印象があります

健康経営「2年」で利益率アップというデータも

経済産業省の紺野春菜さん

——— 現在、新たに取り組まれている課題などはありますか。

今一番大きな課題となっているのは、投資家へのアプローチです

近年は、企業の長期的な成長に必要とされるESG(環境・社会・ガバナンス)活動を評価する投資家が増えつつあります。
健康経営は、ESGのS(社会)の部分に大きく貢献できるもの。
ですので、我々ももっと投資家へアピールしなければいけませんし、銘柄企業もどれだけ企業価値につながっているのかを積極的に開示してアピールしていただきたい。実は今年度から健康経営銘柄の評価においてこの観点を追加しました」

—— 投資家へのアピールという意味では、今後、健康経営の取り組みと業績を定量化して見せていかれるのでしょうか。

「日経Smart Workプロジェクト「スマートワーク経営研究会」では健康経営と企業の利益率との検証をされています。

今年6月の中間発表では、健康経営に取り組むと、2年でROA(総資産経常利益率)とROS(売上高営業利益率)が上昇するというデータが報告されました。

こういったデータは、ボトムアップで健康経営を進めたいと考えている企業にとっても大きな説得材料になります。
健康経営度調査で得られた情報は、健康経営の普及を目的とした学術研究のため、大学等の研究機関向けに提供する仕組みを開始しました。健康経営の実践が実際に企業にどのような効果を与えるかといった分析に是非活用していただきたいです」

新たなヘルスケアビジネスの活用も企業価値のひとつに

ドコモ・ヘルスケア株式会社 代表取締役社長 和泉正幸

——— 健康経営に取り組む企業の現場では、目的が見えないと皆が動かない、短期でも効果が見えないと予算確保が難しい、という課題もあるようです。

本来は経営課題からスタートしていただきたいところもありますが、実務レベルでは、まずはアンケートを採ったり、ウェアラブル活動量計を皆で使って“見える化”し、目標を立てるところから始める企業が多い印象です

また今、面白い企業向けヘルスケアビジネスが続々登場していますが、それに気づかず自前で何とかやろうとして何から始めればいいかわからないと言っている大企業が多く、もったいないと感じます。
講演会や企業のピッチイベントに足を運んで、優れたスタートアップのサービスを導入することで支援するのも大企業の大きな役割だと思います

——— 最後に、企業が健康経営施策を展開しても、目的が「業績アップ」だけでは社員一人ひとりの行動につながりにくい気もします。社員のモチベーションに結びつけるためのアドバイスをお願いします。

「健康診断や再検査の受診などは基本的な部分ですが、同時に、楽しめる工夫が必要です。
コミュニケーションやレクリエーションの一部にしたり、女性向けであれば綺麗になることと絡めたりするのもよいですよね。

健康は結局のところ個人の問題なので、それぞれが自分ごととして考え、取り組むことが不可欠。例えば『休憩をとったら生産性が上がるのでは?』『運動をしたら何かが変わるのでは?』など、自分が変わることでプラスになることは何なのかを考えてもらうことが大事ではないでしょうか。
その行動を企業が後押しするような環境を整えることが、健康経営の継続・浸透につながると考えています」

——— ヘルスケアはやってみて初めて気づくこともありますから、やはり楽しみながらできるというのがポイントになるかもしれませんね。本日は、ありがとうございました。

まとめ

健康経営に取り組む企業が増えてきたことで、取り組みの効果や実証データが増え、健康経営への取り組みのハードルはどんどん下がってきています。一方で、高い効果を得るための継続や新たな課題へのチャレンジが、始まっています。