健康経営

2020/02/21

近年義務化されたストレスチェック制度。概要と実施の流れを解説

長時間労働や職場環境によって生じる労働者のメンタルの不調を未然に防ぐため、ストレスチェックの実施が義務付けられるようになりました。しかし実際のところ、実施方法やルールが曖昧になっている担当者も多いのではないでしょうか。今回はストレスチェックの概要と実施の流れについて解説します。

平成27年12月1日に「ストレスチェック制度」が施行され、所定の条件を満たす企業や組織には年に1度の実施が義務付けられました。この記事では、ストレスチェック制度の概要やメリット、注意点などを解説します。ストレスチェック制度への理解を深めて、メンタルヘルスケアと職場環境の改善を目指しましょう。

ストレスチェックは社員の心の健康を保つための取り組み

仕事によるストレスが原因でうつ病などメンタルの不調を起こし、労災認定を受ける労働者は増加傾向にあります。平成28年に行われた労働者健康状況調査では、「仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答した人の割合は60.9%でした。にもかかわらず、従業員のメンタルヘルスケアに関して企業側が積極的に対策をとることもなかったのです。こうした背景を踏まえ、従業員のメンタルヘルスの問題に向き合うきっかけとして「ストレスチェック制度」がスタートしたのです。

メンタルヘルスケアには、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期発見して対応を行う「二次予防」、メンタルヘルス不調となった労働者の社会復帰を支援する「三次予防」の3つに分けることができます。ストレスチェック制度はこの中の一次予防、すなわち、働く人々のメンタルヘルスを維持するための取り組みなのです。

ストレスチェックの実施は企業側にもメリットがある

ストレスチェックを通して、労働者は自分ではわからなかった心の不調に気付くことができ、自発的な健康改善(セルフケア)に取り組むことができるようになります。そして、企業にとっても大きなメリットがあります。心身ともに健康であることは従業員のモチベーションアップにもつながり、結果的に組織全体としての生産性が向上するためです。従業員のメンタル不調を早期発見し、深刻な状態に陥ってしまう前に対策を講じることができれば、企業としての損失も最小限に抑えることができます。また、職場環境を改善する上でも大きなヒントとなり得ます。

従業員のメンタルヘルスケアに取り組むことは、CSRの観点からも重要と言えます。「従業員が健康―安心して働ける会社」ということが従業員満足度の向上につながり、その結果として企業のイメージアップをもたらします。企業や組織の存続とさらなる発展を目指すために、従業員の健康状態を把握することは非常に有用なのです。

近年の労働安全衛生法改正によりストレスチェックが義務化

平成26年に「労働安全衛生法」が一部改正され、従業員が50名以上の企業に対してストレスチェックが義務化されました。国はこれより前からも職場でメンタルヘルス対策を推進することを呼び掛けていましたが、企業の取り組み状況はかんばしくありませんでした。働く人々の間に蔓延するうつ病や適応障害、そして社会問題となった過労死を失くすために、政府は労働者の心の健康を改善するための制度を義務化したのです。

知っておくべきストレスチェック制度の概要

ストレスチェックとは、労働者本人にストレスに関する所定の項目について自己診断をしてもらうことにより、当該労働者の心理的な負担の程度を把握する手法です。ここで使用する質問票には「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3領域から構成されており、労働者の心の健康状態を多面的な視点で評価できるようになっています。 この調査結果をもとにストレスの程度が高いと労働者を洗い出し、本人が希望すれば医師による面接指導を行います。これを機に労働者が自らの心の状態を自覚し、企業も労働者のストレス要因を把握することで職場環境の改善につなげることができるのです。ストレスチェックを正しく実施するために、制度の概要をきちんと理解しておきましょう。

ここでは、制度の実施対象やルールについて詳しく解説します。

労働者が50人以上の事業所が対象

ストレスチェックが義務化されているのは、労働者の数が50人以上の事業場とされています。法人全体では労働者の数が50人以上であったとしても、各事業場において労働者数が50人に満たなければ実施の義務はありません。労働者数が50人以上であるか否かは、「常態として使用しているかどうか」で判断します。この場合、実施対象とならない労働者(所定の条件に満たないアルバイトやパートなど)も含めてカウントする必要があります。この条件に当てはまる事業場には、ストレスチェックを行うことが義務付けられています。
現段階では、労働者数が50人未満であればストレスチェックは必須ではありませんが、今後は義務化される可能性も考えられます。また規模の小さい事業場であっても、大企業の支店など実施体制が整っている場合はストレスチェックを実施した方がよいでしょう。

フルタイムではないパートやアルバイトにも実施

ストレスチェックの対象となる労働者の範囲は、一般定期健康診断の対象者と同様です。したがってパートやアルバイト、契約社員に関しても、所定の条件を満たせば実施対象となります。条件は次の通りです。

パート・アルバイトの場合

1週間の労働時間が、その事業所で同じような業務に従事する通常の労働者の、1週間の所定労働時間の4分の3以上である者

契約社員の場合

・1年以上雇用されることが見込まれる、もしくは、契約の更新によって既に1年以上雇用されている者
・1週間の労働時間が、その事業所で同じような業務に従事する通常の労働者の、1週間の所定労働時間の4分の3以上である者

ストレスチェックを受ける人数が多くなればなるほど、集団分析の正確性も高くなります。より有益な結果を得るためにも、上記の条件を満たさない労働者に対しても実施範囲を広げることが望ましいでしょう。

「社員」ではない学校職員や地方公務員も対象

ストレスチェック制度は、労働安全衛生法が適用されるすべての労働者に適用されます。一般の会社員はもちろんですが、私立・公立を問わず学校の職員や地方公務員についても実施対象となることを覚えておきましょう。

実施頻度は毎年1回

ストレスチェックは1年に1回以上実施することが義務付けられています。平成29年、厚生労働省は本制度の義務化後初となる「ストレスチェックの実施状況」の調査結果を公表しました。この調書によると、ストレスチェックの実施報告書を提出した事業場の割合は合計で82.9%でした。また、規模の小さい事業場ほど実施報告書の未提出率が高いということもわかっています。
たとえチェックを実施していなくても、実施報告書は提出しなければなりません。現状ストレスチェックを行わないことによる直接の罰則はないものの、労基署(労働基準監督署)への報告をしなければ罰則が科せられます。ストレスチェック実施後の報告を行わなかった場合、最大で50万円の罰則金の支払い義務が発生します。
また労働契約法第5条に、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」が定められています。したがって、ストレスチェックを実施しなければ労働契約法の違反となる可能性もあるのです。

ストレスチェックにかかる費用は事業者負担

経営者にとって、「ストレスチェックにかかる費用」は一番気になるポイントかもしれません。ストレスチェック制度の対象となる企業や団体のことを事業者と呼びますが、チェックの実施は事業者に課せられた義務であるため、必要な費用はすべて事業者の負担となります。費用の内訳を見てみると、最も大きな割合を占めるのが人件費です。ストレスチェックにかかる費用は、実施方法などによっても大きく変わってきます。また新たに産業医を選定する場合や、外部の医師に実施者や高ストレス者への面接指導を依頼するのであれば、当然費用はかさんできます。

ストレスチェックの流れは大きく4段階に分けられる

ストレスチェックは、大きく「準備」「実施」「通知」「分析」の4つのステップに分かれています。ここでは、全体の流れをステップごとに解説していきます。
この制度の目的は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことにあります。したがって、ただ単純にストレスチェックを行えばいいというわけではなく、ストレスを強く感じている従業員に対して適切なケアを施すことが重要です。ストレスチェックの実効性を高めるためにも、それぞれのステップでやるべきことをしっかりと理解しましょう。

1.実施方法決定や社内整備など事前準備

まずは事業者として、「従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止するためにストレスチェック制度を実施する」という旨の方針を示しましょう。次に、衛生委員会で実施方法などの詳細を話し合い決定します。そして、ここで決まったことを社内規定として明文化し、全従業員に知らせます。個人情報の取り扱いに関することなども含めて、従業員に十分な説明をしましょう。その後、実施体制や役割分担を決めていきます。実際にストレスチェックを行うのは「実施者」と呼ばれる医師や保健師ですが、事業場の状況をよく把握している産業医が最もふさわしいと言えます。このほか、制度全体の担当者や実施者を補助する実施事務従事者なども選出しなければなりません。条件を満たしていれば、一人が複数の役割を兼任することも可能です。また、面接指導を依頼する医師もこのタイミングで決めておく必要があります。

2.対象者への質問票配布・回収から結果通知までのチェック実施

事前準備を終えたら、次はストレスチェックに使用する質問票を作成しましょう。
質問票には、次に挙げる3つの項目が含まれていればどのような形式でも問題ありません。

・ストレスの原因に関する質問項目
・ストレスによる心身の自覚症状に関する質問項目
・労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目

何を使えばよいかわからない場合は、国が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」を使うとよいでしょう。また、厚生労働省が無料で公開しているプログラムを利用すればオンラインでも実施できます。

作成した質問票を対象者に配り、各自記入してもらいます。記入済みの質問票は、原則として実施者が回収しなければなりません。回収した質問票をもとに実施者がストレスレベルを評価し、医師の面接指導が必要な者を選び出します。ここで自覚症状が高いと判断された従業員を「高ストレス者」と呼びます。「何点以上の者が高ストレス者である」といった基準はありません。この基準は、実施者の提言や助言、衛生委員会による調査審議を経て決定されますが、必要であれば変更することも可能です。
ストレスチェックの結果は、他者に見られないよう封書やメールを通じて実施者から本人に直接通知しなければなりません。面接指導の要否も本人以外には知られないようにする必要があります。もちろん、事業者に通知することも禁止です。何らかの理由で結果の情報が必要な場合は本人の同意が必要となります。

3.特定の対象者への面接指導

「高ストレス者」であると判定された従業員には、実施者を通じて医師による面接指導が勧められます。その上で当該従業員から申し出があった場合にのみ、指定の医師に依頼して面接指導を行います。従業員からの申し出は、結果が通知されてから概ね1ヶ月以内に実施される必要があります。
面接指導を受けるかどうかはあくまで従業員本人の判断によるため、受診を強要することはできません。したがって、できるだけ受診の申し出がしやすくなるような環境づくりも大切になってきます。
医師による面接指導では、当該従業員の勤務状況、心理的負担の程度、心身の状況などを確認し、ストレスへの対処法の指導を行うとともに、必要に応じて専門機関の紹介なども行われます。面接指導が実施された場合は、事業者は1ヶ月以内を目安に医師からのフィードバックを聴き取ります。この面接指導の結果は、事業所で5年間は保管しましょう。事業者は医師の意見に基づき、必要に応じて就業場所の変更や労働時間の短縮など、就業上の措置を検討・実施します。

4.努力義務である職場分析と環境改善

ストレスチェック制度において義務付けられているのは、「体制の構築」「実施」「高ストレス者への医師面談」「労基署への報告」の4つですが、努力義務として「職場分析」を行うことも求められています。職場分析とは、部、課、チームごとにストレスチェックの結果を比較・分析し、ストレスの原因を特定して職場環境の改善を図る手法です。様々な切り口で集計・分析することで、特定の職場や部署に高ストレス者が多いといった傾向が見えてくることがあります。他と比較して負荷がかかっている職場や部署は、優先的に職場環境の改善を図っていく必要があります。この職場分析の結果も、事業者が5年間保管することが推奨されています。ストレスチェックをより有意義なものとするために、努力義務項目や推奨項目についても積極的に取り組みましょう。

社員への周知から医師による面接指導・職場分析などが終わるまでにかかる期間はおよそ2ヶ月といわれています。

ストレスチェック実施において注意すべきことは?

ストレスチェックは従業員にとっても企業にとっても大きなメリットがある一方で、個人のメンタルヘルスという極めてデリケートな内容を扱うものです。特に次の2点に注意してください。

1. 個人情報の保護

ストレスチェックの結果は実施者によって保存されることが望ましいのですが、それが難しい場合は実施事務従事者が行うことになっています。いずれにしても、非常にセンシティブな個人情報が含まれているため取り扱いには注意が必要です。記録の保存にあたっては保存場所や保存期間を十分に検討し、厳重なセキュリティを確保する必要があります。
またストレスチェックに関わる業務の一部を外部委託する場合は、委託先の事業者がプライバシーマークやISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)といった第三者認証を受けているかどうかも確認しましょう。

2. 従業員への配慮

ストレスチェックの対象となる従業員に対して、受検を強要することはできません。事業者に対しては実施が義務付けられていますが、従業員には受検義務がないからです。様々な理由で受検できない場合もあるでしょうが、本来はすべての従業員が受検することが望ましいのです。より多くの従業員に受検してもらうには、実施目的について事前にきちんと説明し、実施する時期なども十分に考慮する必要があります。また、検査や面接指導の結果によって、従業員が解雇や異動、降格といった不利益な扱いを被ることはないという点も強調しておきましょう。
ストレスチェックは、労働者を評価するためのものではありません。働きやすい環境づくりや労働者のメンタルヘルスケアに役立てるために行うものであることを念頭に置いておきましょう。

ストレスチェックは企業におけるメンタルヘルス対策の中心となります。企業と従業員どちらにとっても明るい未来を切り開くために、上手に活用していきましょう。

編集部

ヘルスケア通信の編集部

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