インタビュー・導入事例

2020/01/10

時間栄養学で考える特定保健指導 ~大事なのは何を食べるかよりも「いつ、どのように」食べるか。~

特定保健指導における食生活指導ではこれまでエネルギーコントロール、いわゆるカロリー計算を中心とした指導を行っていました。「摂取エネルギーよりも消費エネルギーを多くして減量を目指す」という指導はロジックとして明快ですが、この方法だけでは減量がうまくいかない人も少なくありません。

特定保健指導における食生活指導ではこれまでエネルギーコントロール、いわゆるカロリー計算を中心とした指導を行っていました。「摂取エネルギーよりも消費エネルギーを多くして減量を目指す」という指導はロジックとして明快ですが、この方法だけでは減量がうまくいかない人も少なくありません。

そこで近年注目されているのが、体内時計との関わりを重視した「時間栄養学」です。時間栄養学とは食べるタイミングや速度、順番などによって栄養学的効果が変化することに基づき、食事指導に「いつ」「どのように」という時間の視点を取り入れた、新しい考え方です。最新の研究で分かってきたこの考え方で、生活習慣の見直しを促していきましょう。

※この記事は坂根直樹先生(医師、医学博士/京都医療センター予防医学研究室 室長)による「時間栄養学を絡めた特定保健指導」についての講演を元に作成しています。

ノーベル賞も受賞した時計遺伝子とは?

生活習慣病の予防を目的とした特定健診、特定保健指導の開始から10年以上が経過しましたが、開始以来、難しいとされていることのひとつに交代勤務や深夜勤務といった勤務形態の方への保健指導があります。とくに交代勤務の方は、日によって日勤になったり夜勤になったりと勤務時間が変化し、生活リズムが不規則になっています。そのことから体内の時計遺伝子が乱れて、一種の時差ボケのような状態が続き、エネルギーコントロールによる減量がうまくいかないことが多いのです。

時計遺伝子とは、体内時計を概日(がいじつ)リズムと呼ばれる、約24時間の周期に同調させる遺伝子の総称です。1984年に最初の24個が発見され、現時点では351個が見つかっています。時計遺伝子は体内の様々な臓器に存在していて、それにより私たちの体は時計がなくても、約24時間のリズムを自然に刻むことができます。この時計遺伝子を発見し、体内時計の分子メカニズムを解明した米国人科学者3名は、2017年度のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

ただし時計遺伝子の配列には個人差があり、この差が「朝型」「夜型」となって現れます。「あなたは朝型?夜型?」と問うと自分でピンとくるでしょう。

本来朝型の人が夜型の生活になっていたり、夜型の人が朝型にしたりすると体の負担になります。

重要なのは「いつどのように食べるか」 時間栄養学の考え方

こうした時計遺伝子の存在は、特定保健指導の方法にも影響を与えています。

これまでの特定保健指導では減量を指導する際、エネルギー(カロリー)計算を中心に行ってきました。

具体的には、1日あたりの摂取エネルギーを○kcalにして、運動で△kcal消費すると●kg減るので、目標の体重まで▲日で減らせますよといった指導方法です。

しかし実際の減量は単純なカロリー計算だけで片付けられるものではありません。指導の場でも1日1万歩歩く、なるべく階段を使う、食事は腹八分目にして、寝る2時間前には食べない、睡眠を十分とるなどのアドバイスをすることがありますが、それらが必要なことは指導される側も理解できています。けれども、分かっていてもできないから、減量がうまくいかないのです。そうした「分かっているけれどできない」という、ちぐはぐな状態を解消するために「生活リズム」を考慮したらどうだろうというのが、時間栄養学という考え方です。

時間栄養学では、体内時計に合う生活リズムと食事リズムが重要視されています。たとえば同じ量であっても、「いつ」食べるかによって内臓脂肪や脂肪の付き方に違いが生じます。昼間よりも夜遅い食事のほうが、内臓脂肪を蓄積させやすくなるのです。 これには時計遺伝子の一種が作り出す、BMAL1(ビーマルワン)というタンパク質の働きが関係しています。BMAL1は時間帯によって量が変動し、多いほど脂肪をため込みやすくなります。1日のうち、BMAL1の量がもっとも少なくなるのは14時頃。その後22時頃から急激に増え、夜中の2時頃がピークとなります。肥満を解消するには、同じ食事でも「いつ」食べるかが重要なのです。

冒頭の交代勤務や深夜勤務の人の中には夜遅くまで仕事をして、お腹がぺこぺこの状態で帰宅をする人がいます。すると帰宅後、リラックスしたところでドカ食いをしてしまい、しかもその後は一気に眠くなって寝てしまうため、肥満が解消されない…という悪循環が続いてしまいます。また食べてすぐ寝ているため、起きてからも空腹にはならず、朝食も食べないことが多くなります。夜遅い食事+朝食をとらないという組み合わせは、食生活指導において最も良くないといわれています。

こうした人に「夜遅くに食事をするのはやめましょう」「朝食を食べましょう」と指導しても、あまり効果は得られないでしょう。「運動をしましょう」というのも同様です。ではどうすればいいかというと、寝る前の食事の内容を調整する、ドカ食いを防ぐために仕事の合間など体を動かしている時に少し食事をとるなど、生活リズムに合った指導をしてみてはいかがでしょう。食べるときは野菜から先に…など、食事の順番を指導してもよいかもしれません。

このように、従来「なにを」「どれだけ」食べるかに重点がおかれてきたところに、体内時計の働きに基づいて「いつ」「どのように」食べるかの視点を取り入れたのが、時間栄養学による食生活指導です。

食生活や運動指導に加えたい「睡眠衛生」

減量を成功させるには食事や運動の指導に加えて、睡眠の指導も必要です。保健指導ではいつも「体重を何kgにする」「食事はどうする」「運動は…」という話で終わってしまうことが多く、睡眠についての指導までは難しいものがあります。

しかし、そもそも睡眠時間が短い(5時間以下)、平日と休日の睡眠時間が大きく異なるといった「睡眠負債」が今、問題になっています。平日は5時間、休日は7時間というように平日と休日とで睡眠時間が2時間以上異なる人は、睡眠負債がある可能性が高いです。こうしたパターンの人は案外多いのではないでしょうか。睡眠負債があると生活のリズムが乱れて月曜日の出社がつらくなったり、頭痛などの症状を引き起こしたり、日中眠気におそわれ、仕事に支障をきたすこともあります。また睡眠不足になると満腹ホルモンといわれる「レプチン」の分泌が減る一方、食欲が増す「グレリン」というホルモンの分泌が増えて、太りやすい環境ができます。すると食欲が湧き、お菓子が欲しくなったり、塩辛いものが欲しくなったりするといわれています。この状態では「お菓子を食べ過ぎないように気をつけなさい」「塩辛い食べ物をやめなさい」と食欲を抑える指導をするよりは、睡眠不足や睡眠負債の改善指導を行ったほうがよいと考えられます。

睡眠負債があるかどうかは、寝つきの良し悪しでも判断が可能です。たとえば「寝つきが良くて、どこでもすぐに寝られます」という人は基本的に睡眠負債を抱えていることが多いです。布団やベッドに入って5分以内に眠ってしまっている人は、寝つきが良いのではなく睡眠不足だといえます。一方で20分たっても寝られないくらい寝つきが悪いという人も、同様に睡眠負債があると考えられます。寝つきが良くて睡眠負債がある人は睡眠時間を確保すればよいわけですが、寝つきが悪い人は寝つきを良くするための方法を試す必要があります。寝つきを良くするポイントとしては以下のようなものがあります。

体温調整

体温を寝る前に1回、上げることが重要です。1回体温を上げ、それが下がるタイミングで寝るのがもっとも寝つきが良いといわれています。そこを逃すとまた目が冴えてしまいます。体温を上げるための方法は大きく3つあります。ひとつは食事、もうひとつは入浴、あとは運動です。指導の場では、いつお風呂に入るか、いつ運動をしているか、いつ食事をしているかを、夜だけでも良いので聞いておくと、睡眠のリズムをコントロールできるでしょう。

メラトニン

メラトニンは松果体から分泌されるホルモンで、催眠作用があります。朝日を浴びるとメラトニンが減ってすっきりと目覚めやすくなり、日が暮れると増えて眠くなります。時差ボケに対しても有効といわれていて、そのことは様々な研究で示されています。

アメリカではサプリメントとして薬局などで売られていますが、日本にはないため、メラトニンの原材料であるトリプトファンを含む食品を朝食べておくことで夜にメラトニンの生成を促すことができます。そうした指導方法もあります。トリプトファンは牛乳・チーズ・ヨーグルトなどの乳製品、豆腐・納豆・しょう油・味噌などの大豆製品、カツオ・マグロなどの魚類、アーモンド・ピーナッツなどのナッツ類、そのほかバナナや小麦の胚芽、卵などにも多く含まれています。

暗さ

時計遺伝子の説明のところで「体内時計を整えるには、光の使い方が非常に重要」とお伝えしましたが、睡眠のコントロールにおいても光は重要です。寝つきが悪いという人は、できれば食事の時間くらいから部屋を暗くしておくのがよいでしょう。これはメラトニンの分泌にも関わってきます。最近では寝室に間接照明を置くのがはやっていますが、間接照明は雰囲気作りだけでなく眠気を誘うのにも有効です。

無関心な層へのアプローチ

現在、特定保健指導の対象者は約5百万人ですが、そのうち実際に指導を受けているのは約96万人、割合にして約2割です。開始から10年、地道に積み重ねてここまできました。

しかしここからさらに増やすのが難しいといわれています。

そのための指導者側の課題として挙げられるのが、無関心層へのアプローチ方法です。

特定健診の対象者のうち、実際に受診をしているのは半数強、残り約半数の人は受診をしていません。こうした層にどうアプローチしていくかが、今後の拡大に関わってくると考えられます。

このように質の良い睡眠をとるための努力や行動を睡眠衛生と言います。体内時計を整えるには睡眠衛生の考えを取り入れることも非常に重要です。

今後はアプリやウェアラブル機器の活用も

ここ数年で健康管理を目的としたスマートフォンアプリやウエアラブル端末の普及が大きく進んでいます。おそらく今後は特定保健指導においても、そうしたアプリの活用が必須となってくるでしょう。すでに患者さんの中には体重記録をスマホで見せてくれたり、高齢者の方でもスマホの歩数計を見せてくれたりする人が増えています。

ウエアラブル端末を活用すれば、体重や歩数のほかに心拍数や、睡眠の時間やパターン(浅い睡眠か深い睡眠か)なども計測、記録することが可能です。それらを活用すると、これまでのように直接指導をする代わりに、アプリの中でやり取りができるようになります。そうなるとアプリを通じて毎日指導することも可能になるでしょう。これからの特定保健指導では、こうした変化があると考えられます

現状の、月に一度対面で行う形式の保健指導ではタイムリーに行うのが難しいところがありますが、アプリの活用でここぞというときに指導ができるようにもなります。そうしたタイムリーな指導ができるというのが、今後の特定保健指導のポイントになっていくはずです。指導を受ける側の患者さんにとっても、ゲーム感覚で楽しく目標達成できるようになるでしょう。

知識や技術は常に進歩しています。最新のエビデンスに基づき指導方法を見直すとともに、健康管理を楽しく習慣化できる方法をこれからも探していきましょう。

編集部

ヘルスケア通信の編集部

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